3
3
雪国で移動に使われる馬は、普段見ている馬よりずっと大きい。それに力も強い。ソリは一頭立てなんだけど、雪をかき分けてぐいぐい進む。町へ戻ったら労ってあげたい。
「そっれにしてもスゴい雪だねぇ」
口調よりもずっと警戒している様子で、門倉さんが呟いた。視線も険しい。
確かにすごい雪だ。視界はまっ白で周囲の状況がわかりにくい。出発してから降る雪が激しくなってきている気がする。
「まーいつもより降ってんな。オレンフルは山に近いからな、普段から雪は多いんだ」
地元のリックスさんがうなずくほどなんだから、相当なんだろう。
万が一身動きができなくなっても、ソリに備えがあるから心配しなくていいと、安心させるようにリックスさんは言ってくれた。
「リックスさんが引き受けてくださって、本当によかった。心強いです」
「うんうん、頼っていいぜ!」
「あーやっぱ地元民は頼れるねー」
「おっま、棒読みでかぶせんな!感動だいなし!」
「いやいや感謝してんのはホント。ね瑠璃ちゃん」
「はい」
でも門倉さんも、ふざけた調子で言わなければいいのに。
そういえば、急遽買った上着と靴だけど、いいものを買えたみたい。寒さは感じるけれど、ラハティに着いたときほどじゃない。
このあたりの女性用の防寒具だという帽子に肩掛けをくっつけたような、頭から肩までを覆える被り物も買ったので、一番寒いのは顔ね。鼻先まではなんとか覆っているけれど、ここだけはどうしようもない。
やがて白と灰色の視界の向こうに、うっすらと建物が見えてきた。時間の感覚はないけど、止まることはなかったから、順調に来れたんだと思う。
それにしても。
……?なんだろう、町の風景になにか違和感を感じるんだけど。
ソリの速度を落としてゆっくりと町中へ進む。
「あっ、だれかきた!」
「あれっ、リックスだ」
六、七歳の子供が数人、家から出てきた。積もった雪をものともせずに駆け寄ってくる。顔見知りなのね。
リックスさんもソリを降りて、子供たちを迎えた。
「よっ、チビども。父ちゃんはいるか?」
「いなーい。ずっと帰ってこないんだー」
「はあっ!?」
大人が帰ってこない!?
ああ、でも違和感の正体がわかった。この寒さなのに煙突から煙が出ていないし、町がやけに静かで働く人の姿が見えないからだ。なにがあったんだろう。
さくさくと雪を踏む音がして、わたしと同じくらいの女の子がやってきた。
「アンタ達、なにやって――あ、リックス!様子見に見てくれたの?」
「おーミーシャ。いや違うんだ、お客さんを連れてきたんだけどさ……まず中に入れてくんない?冷えきったー」
「あ、そうね」
「あと昼飯も。持って来たから食わせて」
「いいわよ、あたし達もお昼にするとこだったから。あなた達がお客様ね?散らかってるけど、どうぞ!」
「おじゃまします」
わたし達はミーシャさんや子供達が出てきた家に案内された。中はいかにも子供達がたくさんいます、という感じで散らかっていて、片付けることは放棄されているようだった。ミーシャさんは顔を赤くしながらテーブルまわりを片付け、席をつくってくれた。
子供達と一緒にテーブルを囲み、リックスさんがお母さんから持たされたというサンドイッチと、ミーシャさんのスープで少し早いお昼ご飯となった。
「他の大人はどうしたんだ?つーか、なにがあったんだよ?」
「ブランデーの材料を取りに行って戻ってこないのよ。雪の降っている最中でしか採れないから」
雪の降っている最中でないと……?なにを採っているんだろう。
いやそれより、帰ってこないということのほうが気になる。雪の中帰ってこないなんて。
リックスさんも身を乗り出した。
「帰ってこないって、行った先に家とかあんの?」
「うん、避難用の家があるから。ただ連絡がないってとこがわかんなくて。様子見に行きたいけど、チビ達だけにするわけにもいかないし……」
「そんで町にも連絡できなかったと」
身動きがとれなかったのね。
「それでええと、お客さんってことはブランデーを買いにきたのね?」
ミーシャさんが向き直って言ったので、わたしはうなずいた。
「いくつ?倉庫行って取ってくるわ」
さっそく立ち上がるので、わたしは慌てて止めた。
「あの、その前に、よかったらお留守番しましょうか?他のみなさんの様子を見に行きたいんですよね?」
「そりゃそうだけど、お客さんにそんなこと頼めないわ」
「いいんです。リックスさんのお母さんにも戻ったら状況を教えるってお約束していますし、今このまま帰っても、わたしが気になりますから」
ニヤニヤ笑いながら、門倉さんが言った。
「ホントは自分が見に行きたいくせに~」
う。図星だけど、わざわざ言わなくったって!
「雪には不慣れなんです。遭難騒ぎを起こしかねませんから、それは我慢します」
「……?というかあなた、あたしと同い年くらいよね?なんだってわざわざブランデーのためにこんなとこまで?」
「事情があって、『七つの瓶』を集めてるんです」
「え、あの噂の!?うわー、そんな人ホントにいるんだ!へぇー!」
うわー、とあんまりにもミーシャさんが騒ぐので、……なんだか自分が変人のような気がしてきた。
「あ、ごめんごめん。でもそれじゃ興味しんしんなワケだ?」
「はい。これまでも造る過程とか材料とか見てきたので……見れたらいいな、とは思うんですけど。でもわたしは本当に雪には慣れていないので」
真穂呂国でも北の方や山沿いならけっこう降るんだけど、わたしが住んでいる町のあたりは降ってもそれほど積もらない。小さい頃は自分と同じくらいの雪だるまとか、カマクラにものすごく憧れたけどね。
だからここは、遠慮しようと思う。




