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七つの瓶  作者: リコヤ
藍-悲しみに凍えて落ちた流れ星-
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1

 六つ目は藍。『悲しみに凍えて落ちた流れ星』。

 冷えた時か温まった後か、真価はいづれであろうか。私にとっては前者である。

 ――橘昌二郎の旅行記より



 寒い……っ!

 馬車から降りて、わたしは震えあがった。馬車の中は毛布とか湯たんぽなんかの暖房器具に加えて、人の熱気がこもっていたので、それほど寒さを感じていなかったから。

 前の町から馬車に揺られて二時間、北へやって来たら、ずいぶん気候が変わったみたい。


 大陸北部のアンタリア王国、その中でも北にある町ラハティ。

 辺りは一面の銀世界――といえば聞こえはいいけれど、どこもかしこも雪で覆われていて色味が少ないせいか、陰気な感じもする。曇ってるせいかな。

 それよりも、この寒さ。冬生地の着物に上着を羽織っているけれど、全然足りない。前の町では足りたのに……どこか衣料品のお店を見つけて、もっと厚手の上着を買わないと凍えてしまう。

「さささ寒い~~!凍る~!瑠璃ちゃんっ、どっか、どっか入ろうっ?」

 ガチガチ震えながらの門倉さんの提案に、わたしは一も二もなくうなずいた。停留所の人に、宿を兼ねている食堂を教えてもらう。

 でも靴が雪国仕様ではないから、さくさく移動というわけにはいかない。そもそも雪に慣れていないしね。鞄も重いので、転ばないように慎重に歩く。うぅん、靴も買ったほうがいいようだ。転んでケガなんていやだし。


 食堂は大通りから一本外れた道にあった。重たい扉を押し開けると、中からほわぁ~っと温かい空気が流れてくる。ああ、室内は暖かい。

 カウンターの向こうから、おばさんが出てきた。

「いらっしゃい、好きな席に座んな。注文はあるかい?」

「あったまるのちょーだい」

「ええと……ココアありますか?」

「あるよ。んじゃココアとなんかあったまるのだね」

 なんかあったまるの、って……そんな漠然とした注文でなにが出てくるんだろう?


 暖炉に近い席に座ると、門倉さんはさっそく火に手をかざした。

「あー生き返る~」

 わたしも反対側から手を伸ばした。チリチリと焦げるように、指先が温まる。手袋してたのに、指先は白くなっていた。

「冷え切っちゃいましたね」

「うっわ、指しっろ!ホラもっとちゃんと暖炉によって瑠璃ちゃん。女のコは冷えちゃダメなんでしょ?」

「と聞きますね。わたしも少し冷え性ですし」

「……のわりには瑠璃ちゃん、けっこう平気そうだよね?ていうか丈夫だよね瑠璃ちゃんって。ついこの間まで暑いところにいて、そこからそこそこ時間かかったけど、今度はこんな雪国に来てさ。この気候の差は風邪ひいたっておかしくないよー?」

 そうかもしれない。

「まここまで病気も怪我もなく来れたんだから、そのほうがいーけどね」

「うーん……そんなに自分が丈夫だとは思ったことないんですけど」

 風邪は毎年ひくし。それでも確かに、ここまでずっと健康だったのは、すごいことだと思う。


「それでも、まず防寒具を買わないといけませんね。オレンフルはここよりもっと北にありますし」

「だね。俺もあのコートじゃ寒すぎる」

 正直な感想を言ってしまえば、門倉さんのコートは生地が薄くなっているのが寒さの原因だ。長い間着ているものなんだろう。


「なんだい、あんたらオレンフルに用があるのかい?」

 おばさんが門倉さんの前に小さなグラスをとん、と置く。湯気出てないけれど中身、なんだろう?

「はい。『藍』の瓶を買いに」

「わざわざこれを?」

 これ?

 おばさんは門倉さんが傾けているグラスを指した。と、

「――?冷たっ!?」

 門倉さんが飛び上がった。

「これブランデーっしょ?こんな冷たいのあり…………」

「すぐにあったまるよ」


 門倉さんは不自然に沈黙し、やがて目をぱちくりさせた。

「あっれ?なんか、ぽかぽかしてきたけど。ていうか熱くなってきた」

 お酒は体温が上がるというけれど、それを通り越して体が熱くなる冷たいブランデー……って、それは。

「もしかして『悲しみに凍えて落ちた流れ星』ですか!?」

「そうだよ。手っ取り早くあったまろうってんなら、これが一番だ」


 わたしはぽかんとしてしまった。

 『藍』の瓶は『七つの瓶』の中で流通している品の一つだ。『赤』の瓶と違って途絶えたこともない。『橙』の瓶とも違って、そこでしか買えないということもない。でもわたしは、どうせなら生産地で買おうと思って、この北の町までやってきたのだ。

 それでも、まさかこんなに気軽に出てくるものだとは思わなかった。


「それにしても、わざわざオレンフルにまで行こうなんて物好きだね」

 わたしの前にココアを置いて、おばさんは言った。

「まぁいないわけじゃないけど」

 それでもわたしほど年若い人はいないらしい。

 自分でも物好きなことをしているとは思う。でもこれまで『七つの瓶』を集めてきて、ただ手に入れるだけじゃもったいないと思うのだ。それを造っている人、関わっている人の話を聞くのも『七つの瓶』を集める楽しさなんじゃないかと、そう感じている。

 今回は地元でも有名な品物。これまでみたいな苦労とは無縁だ――


 そういう気楽な考えが良くなかったのか、それとも『七つの瓶』を集めるには問題が付き物なのか。

「ふぅん、オレンフルへね……」

 おばさんが不吉な調子で呟いた。

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