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七つの瓶  作者: リコヤ
青-オアシスに映る祈りの姿-
32/47

6

 店先と同じように狭いおババさんの家の台所。五人も居ると窮屈だ。

 テーブルの上に、七分目くらいまで水の入った瓶と、五つのルートゥが置いてある。ルートゥは見た目は緑色で熟す前の柑橘類を思い出すけれど、こういうものなんだそうだ。


 それらを眺めながら、ミランさんがしみじみと言った。

「お疲れさまだねぇ、ルリ。二週間もかかっちゃってさ」

「でも二週間かければ集められるってことですから」

「よく途中で飽きなかったなぁ!」

 ぐりぐりとクルフさんに頭を撫でられる。あ、相変わらず力が強くて、なんだか頭がもげてしまいそう。

「マジで瑠璃ちゃん尊敬するよ。俺だったらぜーったい無理」

 そんなことないと思うけどなぁ。だって会話が少なくて退屈だったろうに、ずっとつき合ってくれたんだもの。


「さてじゃあ仕上げだね。といってもかまえることはない。他の果物を搾る時と同じように、ルートゥを搾ればいい」

「はい」

 わたしは貸してもらった包丁で、ルートゥをまっぷたつに切った。わ、甘酸っぱいいい香り。それに淡い橙色の果肉がきれいだ。おいしそう。

「へぇー、ホントに熟してんのかなって思ってたけど」

「食ってもうまいぜ、ルートゥは。余分に買ったから、あとで分けてやるよ」

「お、ありがとな」

 風変わりな料理は手が出しづらいけれど、果物だったらそんなことはない。むしろ嬉しい。

 それよりもまずは、『オアシスに映る祈りの姿』を完成させないと。


 絞り器にかけて力いっぱいぎゅうぅっとねじりながら押すと、果汁が流れ出てきた。香りがさらに強くなる。

 でもこれ、堅い……これをあと四つか。

 ふぅ、と息をついたら、横から腕が伸びてもう半分のルートゥを取り上げた。

「ルリ、俺がやってやるよ。これけっこう力仕事なんだよな。コツもいるし。ほれ、アンタはどんどん切る」

「え、ありがとうございます、クルフさん」

 体の大きいクルフさんは、それだけ力もあるようだ。次から次へ軽々とルートゥを搾ってくれた。

「よし、これで全部だ。もー搾ってもなンも出ねぇぞ」

 五つのルートゥから、コップ一杯分の果汁がとれた。わたしじゃこれだけ搾れないだろうな。


「あとは混ぜるだけなのかい、おババ?呪文とかないのかい?」

 ミランさん、わくわくしてる。

「あるわけないだろう。言っただろう、元々は寺院に奉納するためのものだったんだって。いったい何を期待してるんだい、アンタは」

 たぶん『赤』の瓶のときみたいな、サラマンダーの炎が降り注ぐようなすてきな光景を期待しているんだと思う。でも『橙』みたいに、飲んでから不思議なことが起こる場合もあるからな。

 あれ、でもいただいたのでは何も起こらなかったっけ。偽物だったから?


「……じゃあ、混ぜますね」

 漏斗を使って、採取した水にルートゥの果汁を注いだ。見た目にはなんの変化もないけれど、これでできあがり。

 なんの変化も起こらないせいか、つまらなさそうにミランさんはおババさんにつめよった。

「ねぇおババ、ほんっとーに偽物と本物の差は材料だけなのかい」

 するとおババさんは、にやりと笑った。この笑い方は、なにかある。

「飲んでごらん。そうすりゃわかるよ」

 わたし達は顔を見合わせる。

「分けてもらってもいいかい?」

「もちろんです」


 量はそれほどないから、小さなコップに一口分ずつ。

 口に含むと、ルートゥの香りが爽やかに広がる。それでも、この二週間ちょくちょくいただいたものと変わりはない。

 …………?

 特になにも起こらない。

 門倉さんやクルフさん達は……やっぱり同じなのかな、目をぱちくりさせている。

「なにも……なかったですね」

 失敗してしまったのかもしれない。沈んだ気持ちでそう言うと、

「えぇっ!?」

 と驚かれた。

 もしかしてわたしだけ、なにも起こらなかったの?


「俺今なんか、瑠璃ちゃんが見えたよ!?えーと見えた、って言うのかな……?」

「あたしもさ!ルリがすっごい真剣に水とにらめっこしてんの!」

「あとなんだかこー、ゲンシュクな気持ちだったような気がすんぜ」

 三人はそうそう、と盛り上がった。わたしだけ、仲間はずれだ。

「……?わたしにはなにも見えませんでしたけど……」

 どうして?がんばったと思うんだけど……


 意気消沈したわたしに、おババさんがにこにこして言った。

「ルリ、あんたは本物を作れたようだね」

「そう……なんですか?」

 わたしにはなにも見えなかったので、実感がわかない。


「これを受け取った寺院はね、納めた人の分も込めて祈りを捧げるんだよ。飲むと作り手の思いが伝わるんだ。今の場合、あんた達はルリの思いを受け取ったんだ」

「なーるほどねー。瑠璃ちゃんがこの飲み物を作りたいって気持ち、自分の考えと錯覚するくらい、ハッキリ伝わってきた」

「瓶をかかげてる姿なんて、確かにお祈りしてるみたいだったよ」

「そ、そうですか……」

 作り手の思いが伝わる水……寄進の代わりに差し出すのは、惜しまぬ手間ひま。量産なんてできるものじゃない。奉納するためのものだというのは、納得がいった。

 でも……でも。ちょっとそれって……恥ずかしいよね。



 五つ目、青。『オアシスに映る祈りの姿』。

 水を通して伝わる思い。

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