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いつの間にか、耳をふさいでかがみ込んでいた。
いったいなにが起きたのだろう?大きな音がしたけれど。
「ケホッ……」
喉がざらついて、咳き込んだ。なんでこんなに埃っぽいんだろう。
わたしはそろそろと立ち上がって灯りをかかげ、
「え、えぇえっ!?」
驚いた。がれきの山ができていた。高さはわたしと同じくらい。洞窟の入口に続くほうを塞がれてしまっている。
……あぁそうだ、鍾乳石が落ちてきたんだ。門倉さんが声をかけてくれて、どうにか後ろに下がって避けることができた。ビックリしたのに、よく動けたなぁ、わたし。
「瑠璃ちゃん?ケガしてない?無事!?」
がれきの向こうから門倉さんの声。
「ケガはしてません、大丈夫です。門倉さんは大丈夫ですか?」
「うん、俺もへーきー」
ああ、それはよかった。
「瑠璃ちゃん、がれきから離れててね、これが崩れないわけじゃないと思うから」
「はい……でも、なにが起こったんでしょう?」
「さっき妖魔のあとを見つけたでしょ?ここから出て行ったっぽいやつの。そいつらが、あちこち衝撃加えてたんだと思う。そんで脆くなってるところに俺がさわったからね……それで崩れたんだと思うよ。それより瓶は無事なの」
「あ、はい」
変な音がしたとき、鞄にしまってよかった。もう一度集め直しになってたら、さすがに落ち込んでいたと思う。
「そんじゃ水集めんの続けてて。俺このがれき除けてるから」
「それならわたしも……」
「瑠璃ちゃんは自分のことに専念しなさーい。俺はほらヒマだから。ね」
なんとなく、有無を言わせない口調だ。
「……わかりました」
わたしはがれきから離れて定位置に戻り、水の採取を再開した。
でも、落ちつかない。
鍾乳石をしっかり見てないといけないんだけれど、どうしてもがれきのほうに目がいってしまう。
ふとおババさんの言葉がよみがえった。
『……必要なのは信仰心じゃないんだよ。これを作るという偽りのない気持ちさ』
今のわたしの気持ちは?『オアシスに映る祈りの姿』を作る、それだけだろうか。
ぽたり……ぽたり……と鍾乳石から水が落ちる。
瓶を差し出さず、わたしはそれをじっと見ていた。
違う。
今のわたしは、がれきの山の撤去作業をしている門倉さんが気になっている。一人で働かせている、二人のほうが早くすむんじゃないか……水を集めることより、そのことを考えている。
偽りあり、だ。
この思いを無視して水を集めるのは、間違いだ。
わたしは瓶をしまい、がれきの山に駆け寄った。
「門倉さん、わたしもこの山、片付けます」
返事を待たずに、手前の石を持ち上げた。はじに寄せておけばいいかな。
「え?ダメだよ瑠璃ちゃん!水集めなきゃ!」
「気が散ってできません」
「ダーメだってばぁ!俺の仕事だよー」
「水を集めるのに必要なのは、偽りのない気持ち、です。雑念があったらダメで、ちゃんと正面から向き合ってないと、正しい『オアシスに映る祈りの姿』は作れないと思うんです。だから、まずこのがれきを片付けるんです」
返事はなかった。怒った……かな。でもきちんと正しい『青』の瓶を作りたいから、これは譲れない。
わたしは黙々と働き続けた。反対側にいる門倉さんも、一言も口をきかない。わたしが手を出すまでは「よいしょー」とか、かけ声かけてたんだけど。
歩くのに困らない程度になるまで、けっこうかかった。大きめのランプといってもこういう作業をするには暗いから、ランプを持って行ったり来たりしたから。でもやっぱり一人より二人だ、うん。
「片付きましたね」
「そだね……」
……どうしたんだろう、元気ないな、門倉さん。
と、いきなり門倉さんが頭を下げた。
「ごめん瑠璃ちゃん!」
「え……えぇ?いったいなにが、ですか?」
なにかあったっけ?
戸惑っていたら、頭を下げたまま門倉さんは言った。
「油断したらダメなんだとか言っておいて、洞窟の状態まで気を配ってなかった。一歩間違ったら瑠璃ちゃんが大ケガしてた」
「爪跡とか気がついたじゃないですか。暗いんですから完璧になんてわかりませんし、わたしは無傷ですよ。謝られるのは変です。それに……もし崩れたりじゃなくて妖魔が出ていたら、どうしました?」
訊くと、困ったような顔で、ゆっくりと顔をあげてくれた。
「そりゃ闘うよ、護衛だし」
「そのあと、妖魔が出たことに対して謝りますか?」
「え。え~………………なにも言わない、かも」
「そうですよね。わたしが感謝して終りです。今のも同じですよ。門倉さんはなにも失敗なんかしていません」
ただの事故。
「うん……そう言ってくれるなら、うん……ありがと」
よかった、納得してくれた。でもここは一つ、気分転換が必要だと思う。
「外に出てお昼ご飯、食べましょうか。完全にすぎちゃってますけど、おなかすきましたし」
「そだねー」
たぶんわたしが気を使ってることに気づいただろうけれど、門倉さんは笑って賛成してくれた。
外の日差しは暖かくて、緊張した心までほぐれる。すっかり気分も良くなって、やる気も満ちた。
気合い満点で洞窟内に戻り、水集めを始めた。今度は、偽りなし。




