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七つの瓶  作者: リコヤ
青-オアシスに映る祈りの姿-
31/47

5

 いつの間にか、耳をふさいでかがみ込んでいた。

 いったいなにが起きたのだろう?大きな音がしたけれど。

「ケホッ……」

 喉がざらついて、咳き込んだ。なんでこんなに埃っぽいんだろう。


 わたしはそろそろと立ち上がって灯りをかかげ、

「え、えぇえっ!?」

 驚いた。がれきの山ができていた。高さはわたしと同じくらい。洞窟の入口に続くほうを塞がれてしまっている。

 ……あぁそうだ、鍾乳石が落ちてきたんだ。門倉さんが声をかけてくれて、どうにか後ろに下がって避けることができた。ビックリしたのに、よく動けたなぁ、わたし。

「瑠璃ちゃん?ケガしてない?無事!?」

 がれきの向こうから門倉さんの声。

「ケガはしてません、大丈夫です。門倉さんは大丈夫ですか?」

「うん、俺もへーきー」

 ああ、それはよかった。


「瑠璃ちゃん、がれきから離れててね、これが崩れないわけじゃないと思うから」

「はい……でも、なにが起こったんでしょう?」

「さっき妖魔のあとを見つけたでしょ?ここから出て行ったっぽいやつの。そいつらが、あちこち衝撃加えてたんだと思う。そんで脆くなってるところに俺がさわったからね……それで崩れたんだと思うよ。それより瓶は無事なの」

「あ、はい」

 変な音がしたとき、鞄にしまってよかった。もう一度集め直しになってたら、さすがに落ち込んでいたと思う。

「そんじゃ水集めんの続けてて。俺このがれき除けてるから」

「それならわたしも……」

「瑠璃ちゃんは自分のことに専念しなさーい。俺はほらヒマだから。ね」

 なんとなく、有無を言わせない口調だ。

「……わかりました」


 わたしはがれきから離れて定位置に戻り、水の採取を再開した。

 でも、落ちつかない。

 鍾乳石をしっかり見てないといけないんだけれど、どうしてもがれきのほうに目がいってしまう。


 ふとおババさんの言葉がよみがえった。

『……必要なのは信仰心じゃないんだよ。これを作るという偽りのない気持ちさ』

 今のわたしの気持ちは?『オアシスに映る祈りの姿』を作る、それだけだろうか。


 ぽたり……ぽたり……と鍾乳石から水が落ちる。

 瓶を差し出さず、わたしはそれをじっと見ていた。


 違う。

 今のわたしは、がれきの山の撤去作業をしている門倉さんが気になっている。一人で働かせている、二人のほうが早くすむんじゃないか……水を集めることより、そのことを考えている。

 偽りあり、だ。

 この思いを無視して水を集めるのは、間違いだ。


 わたしは瓶をしまい、がれきの山に駆け寄った。

「門倉さん、わたしもこの山、片付けます」

 返事を待たずに、手前の石を持ち上げた。はじに寄せておけばいいかな。

「え?ダメだよ瑠璃ちゃん!水集めなきゃ!」

「気が散ってできません」

「ダーメだってばぁ!俺の仕事だよー」

「水を集めるのに必要なのは、偽りのない気持ち、です。雑念があったらダメで、ちゃんと正面から向き合ってないと、正しい『オアシスに映る祈りの姿』は作れないと思うんです。だから、まずこのがれきを片付けるんです」

 返事はなかった。怒った……かな。でもきちんと正しい『青』の瓶を作りたいから、これは譲れない。


 わたしは黙々と働き続けた。反対側にいる門倉さんも、一言も口をきかない。わたしが手を出すまでは「よいしょー」とか、かけ声かけてたんだけど。

 歩くのに困らない程度になるまで、けっこうかかった。大きめのランプといってもこういう作業をするには暗いから、ランプを持って行ったり来たりしたから。でもやっぱり一人より二人だ、うん。

「片付きましたね」

「そだね……」

 ……どうしたんだろう、元気ないな、門倉さん。


 と、いきなり門倉さんが頭を下げた。

「ごめん瑠璃ちゃん!」

「え……えぇ?いったいなにが、ですか?」

 なにかあったっけ?

 戸惑っていたら、頭を下げたまま門倉さんは言った。

「油断したらダメなんだとか言っておいて、洞窟の状態まで気を配ってなかった。一歩間違ったら瑠璃ちゃんが大ケガしてた」

「爪跡とか気がついたじゃないですか。暗いんですから完璧になんてわかりませんし、わたしは無傷ですよ。謝られるのは変です。それに……もし崩れたりじゃなくて妖魔が出ていたら、どうしました?」

 訊くと、困ったような顔で、ゆっくりと顔をあげてくれた。

「そりゃ闘うよ、護衛だし」

「そのあと、妖魔が出たことに対して謝りますか?」

「え。え~………………なにも言わない、かも」

「そうですよね。わたしが感謝して終りです。今のも同じですよ。門倉さんはなにも失敗なんかしていません」

 ただの事故。

「うん……そう言ってくれるなら、うん……ありがと」


 よかった、納得してくれた。でもここは一つ、気分転換が必要だと思う。

「外に出てお昼ご飯、食べましょうか。完全にすぎちゃってますけど、おなかすきましたし」

「そだねー」

 たぶんわたしが気を使ってることに気づいただろうけれど、門倉さんは笑って賛成してくれた。

 外の日差しは暖かくて、緊張した心までほぐれる。すっかり気分も良くなって、やる気も満ちた。

 気合い満点で洞窟内に戻り、水集めを始めた。今度は、偽りなし。

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