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七つの瓶  作者: リコヤ
青-オアシスに映る祈りの姿-
30/47

4

 十日目の朝、いつも通り洞窟の入口で朝ご飯をとりながら、瓶を眺めた門倉さんが言った。

「やっと半分ちょいかぁ……飽きない?瑠璃ちゃん」

「うーん……飽きてはない、と思います」

「え~?だって暗い洞窟の中にずーっといるんだよ?俺は無理、ダメ、飽きる。ていうか飽きた!」

 叫んでから、あーあと大きなため息をついた。

 手伝わなくても護衛のためにずっと近くにいるものね。わたしが水滴とにらめっこしているものだから、ほとんど会話もないし。そりゃ飽きるよね。

「眠くなんない?」

「……ときどき……」

 水滴が落ちて反響する音が、けっこういい音なのだ。防寒対策もばっちりだし、お昼を食べたあとが一番眠くなる。


「洞窟の中、特になにも出ませんし……門倉さんは外にいてもかまいませんよ?」

 ランプは少し大きめの物をおババさんに借りたので、明るさは充分にある。妖魔除けのお香をランプの火にくべてあるので、身の危険性は低いと思う。十日間なにも出なかったのがその証明だ。

 しかし、門倉さんは首を横に振った。

「嬉しいお言葉ですけど~、それはダメなの~」

 気持ち悪い言い方で、ちっちと指も振る。

「昨日まで出なくても今日出るかもしれないでしょ。護衛はそーゆー油断をしちゃダメなの」

「……そういうものかも、しれませんけど」

 まあ門倉さんのお仕事だし、わたしがどうこう言う問題でもない。居てくれるほうが心強いのは確かだし。


 ちょうど食事も終わったので、わたし達は洞窟の中へ入った。さすがにもう慣れて、多少灯りが乏しくても目的地までは問題なく行ける。

「……うーん?」

 いきなり門倉さんが立ち止まった。灯りを足下や壁に近づけて、周囲を見渡す。灯りに照らされた表情は引き締まっている。

「どうかしたんですか?」

「……昨日までと雰囲気が違う」

 雰囲気?

 わたしがわからなくて黙っていると、

「ほらここ、欠けてるでしょ。こことかここも、砕けてる。昨日までと違うでしょ?」

 とあちこち指して教えてくれた。でも覚えてない。

「爪跡っぽいな……」

「え……妖魔がいる、とか……!?」

「んーん、今はいないね。気配ないし。出て行った感じだから、奥まで行っても大丈夫だと思うけど」

「じゃあ、行きます」


 門倉さんの言葉通り、妖魔は奥まで行っても現われなかった。疑っていたわけじゃないけど、ホッとする。

「瑠璃ちゃん、足下とか気をつけて。けっこうあちこち、壊れてるから」

「はい」

 さっきは気づかなかったけれど、ここはさすがにわかった。鍾乳石が折れて転がっていたりしてるから。

 わたしが水を集めている鍾乳石は無事だった。よかった。これが折れていたら大変だったかもしれない。岸辺から手が届く範囲にある鍾乳石って、あんまりないみたいだから。

「だいじょぶそーだね」

 定位置の周囲の陰をのぞき込んで確認して、門倉さんはうなずいた。

「念のためまわりも見てくるね」

「はい」


 灯りはあるし、門倉さんが安全を確かめてくれたから、わたしは安心して水集めに取りかかった。

 瓶を取り出し、水滴を受ける。

 十日で半分と少しだから、あと四、五日集め続ければ充分だと思う。これにルートゥの果汁を足すわけだし。


 連日ここで反響する音を聞いていたら、意外といろんな音が聞こえるのに気がついた。水が落ちてくる高さとか水滴の大きさが関係するんだと思うんだけど……

 ぴとん、ぴとん。ぴちゃん、ぴちゃん。落ちた場所がわたしの近くだとこういう音。とーん……とか、しゃーん……という残響音だけだと、ずっと離れたところ。


 すぐ近くで、がしゃという音がした。なにか砕けたような。

 待って、そんなの聞いたことない。もしかして、妖魔が出た!?

 もしそうなら逃げなくてはならない。瓶をしまい、わたしはびくびくしながら後ろを振り返った。

 なにもいなかった。妖魔どころか門倉さんも。

 でも、今の音は……?

 灯りをかかげて、周囲を観察してみる。音の感じからして、なにかが崩れた音だと思うんだけど……わからない、特に崩れた様子の部分はない。

 気にしすぎだったのかな?


 その時だった。

「瑠璃ちゃん上ッ!」

 飛んできた門倉さんの声に思わず上を見上げて、言葉をなくして硬直した。

 鍾乳石が落ちてきた。

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