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七つの瓶  作者: リコヤ
青-オアシスに映る祈りの姿-
28/47

2

 一通り話し終えると、しゃべり疲れたろう、と言って、おババさんが水をくれた。

「ここはただでさえほこりっぽいからね、よその人は知らんうちに喉を痛めることが多いんだよ」

 なるほど。言われてみると確かに、喉がカサカサする気がする。注意してないと危ないかも。

 出してくれた水はほんのり甘かった。レモン水かと思ったんだけど、ちょっと違う。予想以上に口の中、喉が潤った感じがする。そうとう乾いていたみたい。

「うまいかい?」

「はい」


 すると、おババさんはニヤッと笑った。

「それが『オアシスに映る祈りの姿』だよ」

「――え!?」

「今じゃどこででも手に入る」

「えぇ!?」

「偽もんだけどね」

「えぇえっ!?」

 矢継ぎ早にさりげなく告げられて、わたしは混乱した。


 今飲んだのは、偽物の『オアシスに映る祈りの姿』?

 偽物って、どういうこと?

 目を白黒させているわたしの後ろから、クルフさんが身を乗り出した。

「おいおババ、ちょい待った。これサルチェじゃないのか?」

「サルチェだよ」

 おババさんはそのとおり、とうなずいた。

 サルチェか。『黄』の瓶のときのように、違う名前を持っているようだ。

「ねえルリ、『七つの瓶』ってのは特別なものじゃないのかい?」

「いえ、揃えるのが難しいというだけで、一つ一つはそれほど特別なものではないようです……これまで集めてきたものは、そうでした」

 むしろ七種を特定するほうが難しい。だってどれも、『七つの瓶』の一種だとは言っていないもの。そのうえ集めた人も記録として残したりしていないし。

「そうなのか……や、あのな。これは水にルートゥって果物を混ぜるだけのもんで、普段から飲むもんなんだよ。ルートゥは昔からこの辺りで穫れるしな」

「そうなんですか」

 でもおババさんは、今ではどこでも手に入る偽物だと言った。普段から飲むもの、なのに偽物?


「おババさん、いったいどういうことですか?」

「もともと寄進もできない貧乏人が、寺院に奉納するもんなんだよ、これは」

「これがー?フツーもっといいもんじゃないの」

「馬鹿者。この辺りでは水は貴重品だったんだよ」

 門倉さんをギロリと睨んだおババさんの眼光は鋭い。自分が睨まれたわけじゃないのに、ドキドキしてしまった。門倉さんも顔が引きつっている。


 水が貴重品か……今でこそ地下水路がきちんと整備されて、毎日の水源が確保されているけれど、その前はそれこそオアシスの水だけが頼りだったんだ。だからこそ、奉納品になり得た。

「では今いただいたこれが偽物だというのは……?」

「材料が違うんだよ」

「水と果物が、ですか?ですが果物……ルートゥは昔から穫れるものなんですよね?」

 どちらも大きく変化してしまうとは考えられない。

 おババさんはしみじみとうなずいた。

「そうだよ。変わってしまったのは水のほうなのさ。いや、人が、と言ったほうが正しいかねぇ」

 人が?えっと、どういうことだろう。


 ……まずこのサルチェは、もともとはお金のない人が奉納するために造ったものだった。水は貴重なものだったから、充分その資格があった。

 でも今は整備が進んだおかげで、水はどこでも気軽に手に入るようになった。そして……

「納めればいいだけのものになった……?」

「今じゃ手軽に奉納できるってんで、なんの祈りもこもっとらんもんがそこら辺で売られとる」

 吐き捨てるように言ってから、おババさんはふぅ、と重いため息をついた。

「悪いね。つい愚痴になってしまった」

「いいえ、『青』の瓶の歴史を知れて、嬉しいです」


 でも正直なところ、困ってしまう。『オアシスに映る祈りの姿』を造るのに信仰心が必要だとすると、よそ者のわたしは造れないことになる。ここに根を下ろせば、いつかは造れるのかもしれないけれど……それではダメなのだ。

 うつむいていたら、おババさんに肩をたたかれた。

「安心おし。正しいものは誰にでも造れるから」

「え?ほ、本当ですか?――え、でもさっき」

「確かにこれは奉納のための品だけど、必要なのは信仰心じゃないんだよ。これを作るという偽りのない気持ちさ」

 これを……『オアシスに映る祈りの姿』を作る気持ち。

 それなら。

「はい……!作る気あります、ばっちりです!」

 今のわたしほど作りたがっている人はいないと思う。


 わたしの両脇から、クルフさんとミランさんが身を乗り出した。はさまれたわたしは小さくなる。

「おババ、手伝いは?あたしら手伝ったらダメかい?」

「手伝う気持ちが本当なら大丈夫だよ」

 パチンと指を鳴らしたのはクルフさん。相変わらずの豪快な笑顔で言った。

「そうこなくちゃな!なんでも手伝うぜルリ!」

「そうさ、この間の恩返しだよ!」

 狭い室内で、クルフさんとミランさんは大騒ぎだ。


 そんな中、門倉さんがぽそっとわたしにつぶやいた。

「俺は今回遠慮すんね?本当の気持ちとかちょーっと自信ないからさー」

 ……そうか、監視と護衛っていう本来のお仕事があるものね。なんだかちょっと、寂しいけれど。

「はい、わかりました」

 門倉さんは好奇心の強い人のようだけれど、こういうときちゃんと線を引く。本当にまじめな人だな。

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