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やっぱり人嫌いみたい。ジンディさんの冷たい視線を受け止めながら、そんなことを思った。
わたしは自己紹介をし、事情を説明した。
「失礼を承知で訊きますが、ジンディさんは作り方をご存じないんですよね?」
「知らん」
「復活させようとは思いませんか?」
ジンディさんは不愉快そうに眉をしかめた。
「わたしが調べなかったとでも?無理だ。なにも残っていないのだ」
「いいえ、残っています」
わたしは言いきって、おじいちゃんの旅行手帳を取り出す。昨日読み返して見つけたことがある。
「ハビエルという方をご存知ですか?かつて祖父は、『澱みに落ちた満ちる月の雫』をこの方からいただいたそうなんですが」
「……わたしの師だが」
「祖父がハビエルさんから、少し聞き出していました。ジンディさん」
残っているのはそれだけじゃないと思うけれど。
わたしがここから先に進むには、作り方を取り戻してもらわなくてはならない。
それに不遜な言い方になるけど、今後ジンディさんやアンドゥカさんが胸を張ってナキリ族のまじない師と名のるためにも、必要なことだと思う。
「わたしは『七つの瓶』を集めます。諦めるつもりはありません。一緒に、『澱みに落ちた満ちる月の雫』を取り戻しましょう」
室内はしんと静まり返った。外から聞こえる子供のはしゃぐ声やそれを叱る大人の声が、ひどく遠い。
ピクリとも表情の動かないジンディさんがなにを思っているのか、それはまったくわからない。
長い沈黙だった。
「いいだろう」
ものすごく嫌そうではあったけれど、ジンディさんはそう言った。
「お前達の文字に残されていたのが気にくわないが……どうする気だ?」
「考えてきました。えぇと、まず確認しておきたいんですが」
おじいちゃんが聞き出したことを、ジンディさんはどこまでわかるのか。わたしは手帳をめくった。
「雨で蒸留水を作りますか?」
「基本だ」
「ユンナという薬草で蒸留酒を作ることは?」
「基本だ」
「朝露を集めるのは?」
「なんだそれは」
繰り返しになっていた言葉が変わった。
「材料は以上の三つだそうです。雨の蒸留水、ユンナの蒸留酒、朝露。それらを一晩かけて混ぜて完成する……と。祖父はそう聞いたようです。心当たりありますか?ここからなにか、わかることはありますか?」
ジンディさんの眉間に深いしわが刻まれる。
「一晩……おそらく満ちる月の夜に混ぜるのだろう。魔力がもっとも高まる時」
「ジンディさんは朝露を集めたことはないんですね?」
「ない――が、師が早朝に出かけていたことは覚えている」
なるほど、とうなずいたら、ジンディさんにじろりとにらまれた。
「お前の考えとはなんだ。我らは文字を使わない。目に見える物はなにも遺っていないぞ」
「そうですね、目に見える物は」
でも、忘れてはいけない。
「思い出があるでしょう?今だって、ハビエルさんが早朝に出かけていたこと、覚えていたじゃないですか……!」
言葉で伝えられていく知識と技。それは同時に記憶であり、思い出だ。文字を使わないならなおさら、それは大切なもの。大切にしている人達だと、わたしは思う。
「ハビエルさんのことを、一族のみなさんに聞いてまわります。きっとなにか出てくる」
「……瑠璃ちゃんてけっこう、めんどくさいこと好きだよね……」
だるいなぁと言いたげなため息とともに、門倉さんはぼやいた。他に方法があるなら提案してほしい。
「………………アンドゥカ」
「はい!」
「案内してやれ」
「は、はい!」
アンドゥカさんはぴょこんと立ち上がった。
「あたしのおじいちゃん、一族で一番の年寄りなんです」
いきなりアタリを引きそうな予感。
「お願いします、アンドゥカさん。行きましょう!」




