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わたしの手の中に入るほど小さな、優美な形の瓶。その中に黄金色のリキュールが入っている。それを横からのぞき込みながら門倉さんが、
「これはどんな味なのかな」
と興味津々に呟いた。思えば前の二つも、門倉さんは味わっている。となるとやっぱり気になるだろう。
「ルリさんは先ほど飲まれたな」
「え、さっき?」
飲んだのはなんだか変な味のお茶で、リキュールじゃない。
「ああ、なんかすごい顔してたねぇ」
「甘いんだか苦いんだかわからなくて、一口以上飲めませんでした」
思い出すだけで顔をしかめてしまう。本当に、それだけ衝撃的だった。
するとイスラングルさんが笑った。
「悩み事があるときに飲んだらそうだな」
……なんだか嫌な予感。まさかと見つめ返せば案の定イスラングルさんはうなずき、
「そう、あのお茶にはアーテジアを少し混ぜてあったのだよ」
「え、じ、じゃああの味が……っ!?」
さーと血の気がひいた。あの二度と飲みたくないような味が、エルフの飲み物?アーテジア?黄の瓶なのっ?
そんなぁ。
青い顔でがっかりしているわたしを見て、
「リキュールといえどもアーテジアは薬なのだよ。体ではなく心に対する薬だ」
心の中にある問題の答えに、気づかせてくれる。だから妙な味がするのだと説明してくれた。良薬口に苦し、だ。
ただ悩み事なんかがなければ、ずいぶん爽やかな味がするらしい。
それから、嘘偽りを見破る効果もあるという。魔法が働くそうだ。それは、あの巨木の力なんじゃないかなって思った。あの木の前に立っていると、嘘つこうなんて思わないもの。
納得して、いただいた瓶を鞄にしまう。
ふとイスラングルさんがつぶやいた。
「いやはやしかし、よく似ているな、ショウジロウ殿に」
え?それはおじいちゃんのこと?
びっくりして聞き返すと、にこにこしてうなずいた。
「すぐにわかったとも。人間がここへ来ることはまれなことだしね、よく覚えているよ。やはり二度と飲みたくないとがっかりしていたな」
そういえば手帳にもそんなことが書いてあったっけ。
「……て、その頃からあんたはここの長なのか」
「いや、そのずっと以前からだ」
「イスラングルが長になったのは確か……百年前だったはずです。審査官はそれよりもっと長くやっていたよな?」
「ああ。はっきりとは覚えていないが……二百年前後だったか」
う、うーん……
百とか二百が、年単位なのに当たり前に語られている。さすがにわからない感覚だ。でもそうすると、エルフにとって五十年などついさっき、なのだろう。
「揃ってお世話になりました」
「ははは、何十年と隔たりながら、同じ物を求めて同じ者を尋ねるとはなかなかないだろうね」
親子ならあるかもしれないけれど、祖父と孫、はあまりないかも。エルフを訪ねると当たり前にありそうだけれど。
「さてでは帰りましょうか」
ミゼルさんが馬車を引いてきた。イスラングルさんが玄関まで見送りにたってくれた。
「あなたの旅に幸いあれ、黄金樹の導きがありますように」
エルフの――祝福の言葉だ。そんな言葉をかけてもらえるなんて……すごく嬉しい。
えぇっと、返礼。旅に出る前に、種族別の礼儀作法の本を読んでおいたのだ。
「黄金樹とともに、あなたも健やかでありますように」
イスラングルさんがにっこり笑ってくれたので、間違えずに言えたようだ。
同じだけの時間をかけて、ティマ・サガナの都に帰ってきた。着いたのはお昼すぎだ。ミゼルさんの操る馬車はまっすぐ喫茶クローバーへ向かう。相変わらず大広場は人がいっぱいで、お店も満席だった。
それでもリュベルさんはすぐに出て来てくれた。
「お帰りなさいー」
「た、ただいま帰りました」
ここを出発する前はあれだけ知りたかった『七つの瓶』の全貌を、今はほとんど知ろうとは思わない。
まだちゃんと、時間はあるんだもの。
おじいちゃんの手帳を手がかりにするけれど、でも、わたしの旅なんだから。
新たな決意とともにそう言うと、リュベルさんはにっこりと笑った。
「はいー。きっとそうなると思っていましたー」
「……お見通し、ですか」
「まぁ僕らも長生きしてますからね」
「あーっ、そうだよ!あん時話してて、なーんかミョーだと思ったんだ!」
急に門倉さんが騒ぎだした。なにが妙なのかしら。
「見た目人間だけど、あんた半エルフでしょ!」
「えっ?」
「もー瑠璃ちゃん!あのイスラングルって人が長になったって、知ってる人間がいるわけないでしょ!?百年前なんだから!」
「……あ!」
言われてみればそうだ。というか、ミゼルさんとイスラングルさん、話し方が同等だった……
「あはは。僕だけじゃなくてアルカ・ブーケは全員半エルフですけどね」
「…………えっとつまり、リュベルさんやシュウさん達も……」
「半エルフですよー」
あっさりと言われた事実に、わたしと門倉さんは沈黙してしまったのだった。
三つ目、黄。『沈黙の向こう側』。
良薬は口にも心にも苦い。




