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七つの瓶  作者: リコヤ
黄-沈黙の向こう側-
20/47

6

 わたしの手の中に入るほど小さな、優美な形の瓶。その中に黄金色のリキュールが入っている。それを横からのぞき込みながら門倉さんが、

「これはどんな味なのかな」

 と興味津々に呟いた。思えば前の二つも、門倉さんは味わっている。となるとやっぱり気になるだろう。


「ルリさんは先ほど飲まれたな」

「え、さっき?」

 飲んだのはなんだか変な味のお茶で、リキュールじゃない。

「ああ、なんかすごい顔してたねぇ」

「甘いんだか苦いんだかわからなくて、一口以上飲めませんでした」

 思い出すだけで顔をしかめてしまう。本当に、それだけ衝撃的だった。


 するとイスラングルさんが笑った。

「悩み事があるときに飲んだらそうだな」

 ……なんだか嫌な予感。まさかと見つめ返せば案の定イスラングルさんはうなずき、

「そう、あのお茶にはアーテジアを少し混ぜてあったのだよ」

「え、じ、じゃああの味が……っ!?」

 さーと血の気がひいた。あの二度と飲みたくないような味が、エルフの飲み物?アーテジア?黄の瓶なのっ?

 そんなぁ。


 青い顔でがっかりしているわたしを見て、

「リキュールといえどもアーテジアは薬なのだよ。体ではなく心に対する薬だ」

 心の中にある問題の答えに、気づかせてくれる。だから妙な味がするのだと説明してくれた。良薬口に苦し、だ。

 ただ悩み事なんかがなければ、ずいぶん爽やかな味がするらしい。

 それから、嘘偽りを見破る効果もあるという。魔法が働くそうだ。それは、あの巨木の力なんじゃないかなって思った。あの木の前に立っていると、嘘つこうなんて思わないもの。

 納得して、いただいた瓶を鞄にしまう。


 ふとイスラングルさんがつぶやいた。

「いやはやしかし、よく似ているな、ショウジロウ殿に」

 え?それはおじいちゃんのこと?

 びっくりして聞き返すと、にこにこしてうなずいた。

「すぐにわかったとも。人間がここへ来ることはまれなことだしね、よく覚えているよ。やはり二度と飲みたくないとがっかりしていたな」

 そういえば手帳にもそんなことが書いてあったっけ。


「……て、その頃からあんたはここの長なのか」

「いや、そのずっと以前からだ」

「イスラングルが長になったのは確か……百年前だったはずです。審査官はそれよりもっと長くやっていたよな?」

「ああ。はっきりとは覚えていないが……二百年前後だったか」

 う、うーん……

 百とか二百が、年単位なのに当たり前に語られている。さすがにわからない感覚だ。でもそうすると、エルフにとって五十年などついさっき、なのだろう。

「揃ってお世話になりました」

「ははは、何十年と隔たりながら、同じ物を求めて同じ者を尋ねるとはなかなかないだろうね」

 親子ならあるかもしれないけれど、祖父と孫、はあまりないかも。エルフを訪ねると当たり前にありそうだけれど。


「さてでは帰りましょうか」

 ミゼルさんが馬車を引いてきた。イスラングルさんが玄関まで見送りにたってくれた。

「あなたの旅に幸いあれ、黄金樹の導きがありますように」

 エルフの――祝福の言葉だ。そんな言葉をかけてもらえるなんて……すごく嬉しい。

 えぇっと、返礼。旅に出る前に、種族別の礼儀作法の本を読んでおいたのだ。

「黄金樹とともに、あなたも健やかでありますように」

 イスラングルさんがにっこり笑ってくれたので、間違えずに言えたようだ。



 同じだけの時間をかけて、ティマ・サガナの都に帰ってきた。着いたのはお昼すぎだ。ミゼルさんの操る馬車はまっすぐ喫茶クローバーへ向かう。相変わらず大広場は人がいっぱいで、お店も満席だった。

 それでもリュベルさんはすぐに出て来てくれた。

「お帰りなさいー」

「た、ただいま帰りました」


 ここを出発する前はあれだけ知りたかった『七つの瓶』の全貌を、今はほとんど知ろうとは思わない。

 まだちゃんと、時間はあるんだもの。

 おじいちゃんの手帳を手がかりにするけれど、でも、わたしの旅なんだから。

 新たな決意とともにそう言うと、リュベルさんはにっこりと笑った。

「はいー。きっとそうなると思っていましたー」

「……お見通し、ですか」

「まぁ僕らも長生きしてますからね」


「あーっ、そうだよ!あん時話してて、なーんかミョーだと思ったんだ!」

 急に門倉さんが騒ぎだした。なにが妙なのかしら。

「見た目人間だけど、あんた半エルフでしょ!」

「えっ?」

「もー瑠璃ちゃん!あのイスラングルって人が長になったって、知ってる人間がいるわけないでしょ!?百年前なんだから!」

「……あ!」

 言われてみればそうだ。というか、ミゼルさんとイスラングルさん、話し方が同等だった……

「あはは。僕だけじゃなくてアルカ・ブーケは全員半エルフですけどね」

「…………えっとつまり、リュベルさんやシュウさん達も……」

「半エルフですよー」

 あっさりと言われた事実に、わたしと門倉さんは沈黙してしまったのだった。



 三つ目、黄。『沈黙の向こう側』。

 良薬は口にも心にも苦い。

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