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七つの瓶  作者: リコヤ
黄-沈黙の向こう側-
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4

 さわさわと風が吹き抜けていく。少し肌寒い、かな。

 四阿からぼんやりと中庭を見渡した。種類はバラしかわからないんだけど、とてもきれいな庭園だ。エルフの庭園だから当たり前かもしれない。植物の世話でエルフの右に出る種族はない。


 さっきまでお昼ご飯を食べろと門倉さんがわあわあ騒いでいた。食欲はなかったけれど、せっかく用意してくれたんだし、あんまり言うものだから少しだけ食べた。

 温かいうちに飲むように、とお茶だけ残して、門倉さんはわたしを一人にしてくれた。軽い調子だけど、意外と気づかってくれる人だ。


 また風が吹いた。さっきより強くて、ぶるりと体が震えた。お茶、飲もう。

 いい香りがする。なんのお茶だろう?白いカップに映える水の色は、緑色の中に金色が混じって見える。両手で包み込むようにカップを持ち、一口飲んだ。

「――っ!?」


 に、苦いやら甘いやら……っ、なに、この味……!

 無理、これ以上飲めない。あんまりなお茶の味に、頭が真っ白だ。

 温まろうと思ったのに、なんてことかしら。


 ティーセットを遠くに押しやって、ベンチにもたれた。なにげなく上を見上げると屋根の向こう、蒼い空を白い雲が流れていくのが見えた。ああ、この辺りはラピュタは飛ばないんだ。これだけいい天気だと、地上からでもよく見えるはずだから。

 そういえば、おじいちゃんとよくこんな風に空を見上げていたなぁ……



「旅はいい。こうのんびりしているのもいいがな、いろんなモンに出会えるからな!」

「いろんなもん、て?」

「そりゃいろんなモンだ。動物だろ植物だろ、うまい食い物に飲み物。それからなんつったって、ヒトだ」

「ひとは町にもいっぱいいるじゃない」

「いーや、もっとたくさんのヒトだ。縁をつなげて広げるのさ」

「また、エンだ」

「そーだ。縁ってのは大事だぞ。そんでもっていいもんだ。じいちゃんの友達は世界中にいるんだ。いいだろ~」

「友だちが世界中……それ、いいなぁ」

「世界は広いぞ、瑠璃。旅に出なきゃァわかんないけどな!」

「それじゃあわたしも――」



 わたしはがばっと体を起こした。

 おじいちゃんが『七つの瓶』を求める旅で得たものは、瓶だけじゃなくて、たくさんの出会い。

 それがうらやましいと思った。


 だから、

「わたしも旅に出て、たくさんのものに出会いたい……!」

「――それが、あなたが旅に出た、そしてこれからの旅を続ける理由だね?」

 いつの間にか、イスラングルさんが近くに来ていた。視線がじっとわたしに注がれている。

 わたしはしっかりとうなずいた。

「はい」

 そうなんだ。だからわたしは、いつか『七つの瓶』を探す旅に出たいと願っていたんだ。小さい頃から、ずうっと。


 イスラングルさんはにっこりした。とても優しい笑顔だ。

「おっ?瑠璃ちゃん立ち直った?」

 門倉さんが少し離れた茂みからひょこっと顔を出した。たぶん、ずっとそこにいたんだろうなぁ……

「はい。もう大丈夫です」

 よかったーと言いながらやってくる。


「んでもさ、赤の瓶手に入れた時、二度とない機会だから楽しむぞーとか言ってなかった?」

「そのつもり……だったんですけど」

 あのときの気持ちに嘘はない。

「お父上やお店の仲間を思うことからくる使命感はすばらしい。ただそれは同時に、落とし穴になりかねない。だからこそ、己の気持ちを大切にしてほしいと思ったのだ」


 ……あ。ああ、そうだ。

 この旅を楽しむつもりなら、どうしてわたしはリュベルさんにすべてを教えてくれるように頼むの?

 おじいちゃんの旅行手帳があいまいな理由は「楽しみが減る」からだ。自分から減らして――なくしてどうするの!

「ああもう……」

 全身から力が抜けた。ぺたんとベンチに座り込む。

「どした瑠璃ちゃん!」

「わたし、そうとう焦ってたんですね……」

 あと八ヶ月で残り四つ。大丈夫、時間はある。


「そのようだね。それに――およそ幻と呼ばれるものは、求める者が引き寄せる部分が大きいのだ。得たい、出会いたいと願う心が、それにつながる道を示す。道を見つけることができる」

 イスラングルさんがわたしの頭をゆっくりとなでた。

「気持ちを大切に、ルリさん。それが秘訣だ」

「はい……ありがとうございます、イスラングルさん」

 なんだかほんわりと嬉しくなって、ちょっと泣きそう。


 わたしは立ち上がった。

「イスラングルさん、黄の瓶……えぇと、アーテジアを、分けてください」

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