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七つの瓶  作者: リコヤ
黄-沈黙の向こう側-
17/47

3

 エル・エルムディアはティマ・サガナの南西に位置する。ミゼルさんが用意してくれた馬車に揺られて三日目のお昼近くなった頃、前のほうに大きな建物が見えた。お城……じゃない、館と呼んだほうがしっくりくる。


「エル・エルムディアの入口、イスラングルの館です。エルフ達も我々も、あそこで審査を受けなければ出入りすることはできません」

 審査といってもそんなに厳しいものではなく、名前と目的を告げればいいだけらしい。ラピュタの入島審査と同じね。ああ、ちょっと緊張した。ちなみにイスラングルというのはエルフの名で、審査官の長だそうだ。


 館の入口で馬車を預け、ミゼルさんの案内で中に入る。

「うわぁ……っ」

 エルフの建築物に入るのは初めてだ。人間やドワーフなどと違って、よその土地ではあまり建物を造らないらしいので、見ることもない。


 他に誰もいないのをいいことに、わたしはきょろきょろと遠慮なく見物させてもらった。曲線を主体にした優美な模様が、そこかしこに施されている。

「なんだか……ティマ・サガナと装飾が似てますね」

「気づかれましたか?都の大部分は我等が女王陛下ドラに従ったエルフ、半エルフが主導して造ったのですよ。ですから似通っているんですね」

「そうだったんですか!」

 あ、ということはティマ・サガナの古い建築物はエルフの建物ってことよね。この間町中をちょっと見物した中に、あったのかもしれない。


 そんなことを思っていたら、奥から誰かやってきた。

「人間を連れてくるとは、珍しいな。ミゼル」

「やあイスラングル」

 うわ、うわ、うわ。きれいな人だぁ……ゆったりした服装でわかりづらいけど、がっしりした体格の人だ。透明で威厳がある青い目。長い金髪を三つ編みにして肩にまわしているのが、ちょっとかわいらしく見える。

「彼が館の主、審査官の長イスラングルです」

「ようこそ、人間の客人よ。話をする前に、まずは審査をさせていただこう」

「はい」


 部屋の一角に、大きな机がある。そこへ腰掛けると、イスラングルさんは大きなノートを広げた。

「名と出身、目的を」

「真穂呂国出身、橘瑠璃です。『七つの瓶』を集める旅の途中で、黄の瓶を求めて参りました……っ」

「門倉理人、レナト同盟所属の戦士でー、彼女の護衛でーす」

 ……ど、どうしてこういうときまで門倉さんは軽いのだろう。その図太さが少しだけ欲しい。


 ふむ、とうなずきながらイスラングルさんはノートに何か書き込み、わたしを見た。

「黄の瓶とはアーテジアのことで間違いないかね?」

「へ?アー……テジア?」

 そんな単語は初めて聞いた。

「ええと、ラナタと、シェンナミストと、レプトシュクリウムから造られる飲み物、としかわかっていないんです」

「それをアーテジアと言うのだよ」

 エルフの造るリキュールだそうだ。


「あの、分けていただけませんか?」

「それはかまわないが」

 驚くほどあっさりとうなずくイスラングルさん。ここまでずいぶん時間がかかったけれど、最後はあっけない。

 でもいいの、今は結果が必要だから!やったぁ!


 喜んでいたら、しかしとイスラングルさんが続けた。

「なぜ欲しいんだね?いや、『七つの瓶』を集めているとは聞いたが」

 わたしは事情を説明した。なるべく簡潔にと思ったのだけれど、結局すべて話すことになってしまった。

「あっはっは。それはそれは困ったお父上だな」

 うう、爆笑されてしまった。そうよね、わたしだって他人事なら大笑いする。恥ずかしいなぁ。


 縮こまっていたら、笑いをおさめたイスラングルさんが静かに言った。

「しかしね、それでは納得はできん」

「え?」

「それはあなたの理由ではないからだ」

「…………」

 どういうことだろう。


「侮辱されたのはお父上、あなたではない。『七つの瓶』を集めると言ったのもお父上で、あなたではない」

「でも、父から頼まれたのはわたしです」

 わたしはそれを引き受けたのだ。橘貿易がつぶれるのはわたしにとっても従業員のみんなにとっても、困ることだから。


「しかし、本当にお店の誇りを護るために『七つの瓶』は必要かね?それこそ、売り上げを伸ばし信用を勝ち得るほうが、お店の、またお父上のためになろう」

 そう……言われればそうだ。

「仮にご実家が廃業に追い込まれても、あなたが本気で商売をしたいと思うのならばたいした障害ではないはずだ」


 ……そうかもしれない。それは、他の人と同じように就職するということで、他のお店で修行をするということになる。従業員のみんなだって、いつかは独立する。

「それでもあなたは旅に出た。なぜだね?」

「だって……おじいちゃん……祖父から話を聞いていたから、憧れて」

「なにに?」

「……なに……?」

「ルリさん、あなたはいったい、なにに憧れたのだ?どうして旅を続けたいのだね?」


 イスラングルさんの薄い青の瞳が、わたしを射る。厳しくはないのに、すくんでしまう。

 わたしが憧れたもの。

 どうしよう、きちんと言えないと『七つの瓶』が揃えられなくなる。

 言葉が出てこない。

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