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七つの瓶  作者: リコヤ
黄-沈黙の向こう側-
16/47

2

 わたしは図書館の庭のベンチで頭をかかえた。次の手が思いつかない。エル・エルムディアに行くには、どうしたらいいのか。

「は~……」

 ため息をこらえられない。

 エルフの知り合いなんていない。でもきっと、エル・エルムディア以外では黄の瓶は手に入らない。


 エルフの品はどう流通していたんだったかな。橘貿易でも少し扱っていたけれど、お父さんが買い付けに、なんて話は聞いたことがない。

 そうだ、手紙のやり取りをして仕入れていたんだ。でもその肝心の仕入れ先を知らない。となれば速達を使ってお父さんに問い合わせるしかないけれど、それだと時間がかかってしまう。うぅん、問い合わせてもわかるかどうか……だってうちで扱ってないってことは、情報もないってことだもの。

 ああもう、通信札くらい用意しておけばよかった。


「は~……」

 またため息をついてしまう。

「のさ瑠璃ちゃん、噂なんだけどね?」

 うつむくわたしの頭をぽんぽん叩いて、門倉さんが言った。

「喫茶クローバー、あそこ、女王親衛隊とつながりがあるらしいよ」

「……?それが、なにか?」

 わたしはのそのそと顔を上げた。エルフの国と女王親衛隊がどうつながるの。

「えーとね、ティマ・サガナの女王は半エルフでしょ?だから女王と女王親衛隊は出入りできるらしいの」

「じゃあ、頼み込んだら、連れて行ってもらえるかもしれない……?」

「噂がホントだったらね」


 わたしは思わず笑ってしまった。噂がホントだったらって。

「なに言ってるんですか。『七つの瓶』だって幻の品なんですよ?祖父が集めていたおかげで二つ手に入りましたけれど、本当なら噂を追いかける旅だったはずです」

「ああ……そいえばそーだったね」

「噂でかまいません。喫茶クローバーへ行きましょう!」

 時計塔の時刻は三時近くを指している。都までは定期馬車で一日。普通夜間運行はしないから、途中の停留所で一泊ってことになる。喫茶クローバーを訪ねるのは明日だ。



 都に着いたのはまだ朝もやの濃い早朝。停留所のサービスで朝ご飯を食べてから、開店早々の喫茶クローバーを訪ねた。さすがにまだお客さんはいないだろうと思っていたら、すでに一人、お茶を飲んでいる人がいた。早いなぁ……


「ルリさん、リヒトさん、お待ちしてましたー」

 出迎えてくれたリュベルさん。待っていたって、どういうこと?

「橙の次は黄、ですからー」


 お茶を飲んでいたお客さんが立ち上がって、こちらにやってきた。精悍な顔立ちの男の人だ。両手に篭手をはめていて、足下も頑丈そうなブーツ、着ている黒い服は上等な仕立物のようだ。全身統一された装飾で、制服のようだけれど。何者だろう。

「紹介しますー、」

「おはようございます、かわいいお嬢さん。アルカ・ブーケのミゼル・モートレイドと申します」

 そう言って優雅な仕草でおじぎをした。

「え……?アル……?」

 ってなんだろう?きょとんとしたわたしの横で、門倉さんが驚いた。

「じ、女王親衛隊……ッ!?」

「うんそう」

 さらっとうなずいたミゼルさん。


 ……ええっ!?わたしはあわてて頭を下げた。

「お、おはようございます。橘瑠璃ですっ」

「ルリさん。いい名前だ」

「……ありがとうございます」

 ナンパな人なのかしら。


「アリア達から話は聞いてます。『七つの瓶』を求める旅の途中だと。次は黄の瓶ですね」

 わたしはうなずいた。でも、と言いかけるのをミゼルさんがさえぎり、

「エル・エルムディアへの案内でしょう?大丈夫、そのためにここで待っていたんですから。もっともお二人が入れるのは入口のみですけれどね」


「――ちょ、ちょい待って」

 門倉さんが腕をのばして割り込んできた。

「喫茶クローバーが女王親衛隊とつながりがあるって噂はホントなんだ?」

「つながりもなにも、アリアもリュベルもアルカ・ブーケの一員だ。シュウは少し違うけどね」

「えぇえぇえッ!?」

 わたしと門倉さんは声を揃えて叫んだ。うそ!お二人が親衛隊!?パティシエとウエイトレスじゃないの!?

「同時にパティシエとウエイトレスである、ということです」

「秘密にしてたわけじゃないんだけどー」

 町の人はみんな知ってるから、とリュベルさんははにかんだ。まあ確かに、通りすがりの旅人にわざわざ言う話でもない。


「言ってくれたらわざわざ『賢者の塔』にまで行って本とにらめっこする必要なかったよ」

 ぶつぶつと門倉さんがぼやいた。そうとう厭だったのね……

「でもあの植物のことがわかったからエル・エルムディアに行くことになったんですし、たぶん教えてもらっていても『賢者の塔』には行ったと思いますよ」

 他にも収穫はあったのだし。


「つーかさ。『七つの瓶』のこと全部知ってんじゃないの?」

「え?……そんな」

 言いかけて、はた、と気づいた。

 ここに来てから、わたしはまだ一度も用件を告げていない。リュベルさんに迎えられたとたんに「待っていた」と言われた。橙の次は黄だから、と。そして噂が本当かどうかを訊く前にミゼルさんを紹介され、行き先を告げる前にエル・エルムディアへ案内すると言われた。

 すべて先回りされている。


 わたしはリュベルさんとミゼルさんを振り返った。

「ご存知……なんですか?」

「……ええ、知ってますー。本当に知りたかったら、教えてさしあげますー」

 そんなの、知りたいに決まっている。だって期限は一年しかなくて、すでに四ヶ月すぎている。あと八ヶ月で残り四つ。その四つのうち三つは詳細不明だ。

「それじゃあー、まずは黄の瓶をもらいに行ってきてくださいー」

 帰ってきたらゆっくり話します、とリュベルさんは言った。なんだろう、リュベルさんの笑顔にふくみを感じるんだけれど。


 でもまずは。

 ミゼルさんがうなずく。

「ではお二方、準備はいいですか?エル・エルムディアへご案内しましょう」

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