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七つの瓶  作者: リコヤ
黄-沈黙の向こう側-
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 三つ目、黄。薬草酒『沈黙の向こう側』。

 苦いやら甘いやら、それでいて爽やかなような奇妙な味わいである。しかし、余り何度も飲みたくはない。

 ――橘昌二郎の旅行記より



「え、なに、今度の手がかりって、これだけなの!?」

 祖父の旅行手帳を見た門倉さんが、すっとんきょうな声をあげた。

 無理もない。

 しおりがはさんであるのは、黄の瓶を手に入れた日のページ。いきなり黄の瓶を手に入れたと書かれているのだ。どこそこへ行ったという記述はなく、代わりに植物のスケッチがある。かなり特徴的な花や葉で、スケッチのト書きには『黄の瓶の材料』とある。


「だからまず、この植物がなんなのかを調べに、『賢者の塔』に行きます」

「ああ……あそこならわかるだろうね。でも瑠璃ちゃん、出発前に調べなかったの」

 もちろん調べた。でも手持ちの図鑑にも、近くの図書館の図鑑にも載っていなかったのだ。知る人の少ない、特殊な植物なんだろう。その分、これがわかれば、黄の瓶がどこで手に入るものなのか判明するはずだ。


 ということで、『賢者の塔』の図書館で調べはじめたのだけれど。

「無理。もー無理!」

 三日目にして門倉さんがつぶれた。お昼ご飯を食べにきた食堂のテーブルに突っ伏してうめいている。

 確かに疲れた。朝から夜まで座りっぱなしだから腰が痛いし、肩こりもある。


 一番詳しいと紹介されたマトルーオ植物図鑑は全部で二十巻。赤みがかった革の装幀の大きな図鑑で、一冊あたり、わたしの手のひらよりも幅がある。すべての植物に細かく描き込まれた図版がそえられていて、亜種の多い種類は何ページもさかれている。名前も地方で呼ばれている呼び名から一般的なものまで、たくさん載っている。

 それが二十巻。

「気合いっつーより執念だな、これ」

 という門倉さんの感想には大きく同意する。

 この中からスケッチだけを手がかりに探し出さなければならない。細い銀葉、つまり白みを帯びた葉。それから針のような細い葉を持つ花。そしてト書きには巨木とあった、白い幹に黄色い筋の入った葉。

 さすがに厳しい。


「ねえ瑠璃ちゃん。ちょっと方法変えない?」

 げっそりとした表情で門倉さんが言った。

「今の調子じゃ、いつになるかわかんないよ。それじゃ困るでしょ?」

「ええ」

「植物学者を紹介してもらおうよ。せっかく『賢者の塔』に来てるんだし、力貸してくれるよ」

 確かに今のままでは本当にらちがあかない。時間があるわけじゃないし。 

「そうですね……わかりました、学者さんを紹介していただきましょう」

 図鑑を見ているのは嫌ではないけれど、一日中やっていると頭が痛くなってくるし。あんまり前に進まないものだから、集中できなくなってきてる。


「あー、これで解放されるっ!」

 大きく伸びをして、すごく嬉しそう。

「……もしかして門倉さん、本読むの嫌いでしたか」

「えー、うーん……まぁねっ」

 それは、悪いことをしてしまった。なにも言わずに手伝ってくれたから考えなかったけれど。


 でもそうだ、門倉さんは吉備津商会の社長さんがつけてくれた監視兼護衛で、『七つの瓶』探しを手伝うためにいるんじゃないんだった。無意識のうちに甘えていたみたいだ。

「……瑠璃ちゃん、よけいなこと考えてるでしょ」

 テーブルの上に身を乗り出してきた門倉さんが、わたしの顔をのぞき込んできた。よけいなこと?

「俺もけっこう楽しんでるから、別にいーんだよ。それに人の力を借りるのは、悪いことじゃないし?だいたい瑠璃ちゃんはまだ十七歳でしょー。年上の俺を頼りなさい」


 …………うーん。

 そういえばこの人、年上なんだった。確か……二十三?言動がなんだか軽いものだから、忘れていた。

 人の力を借りることは悪いことじゃない、か。借りていないつもりはないんだけどな。

「ちょっと。なーんで黙っちゃうかなー」

「いえ、なんでもないんです」


 図書館に戻って植物学者を紹介してもらえないか頼むと、すぐに近くにいた人を引っ張ってきた。いいのかなと思ったんだけど、受付の人曰く図書館に本を探しにくる学者はどちらかといえば暇つぶしだから問題はない、と言う。引っ張られた本人もかまわないと言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。


 あとは、あっという間だった。

 銀葉の植物はラナタ。針のような細い葉を持つ花はシェンナミスト。黄色い筋の入った葉を持つ巨木はレプトシュクリウム。

 確認のために図鑑を開いただけで、すぐにわかった。わたし達の二日間はなんだったのだろう。時間を無駄にしただけ?ものはついでと、出発前に調べた他の植物についても確認してもらった。


「それで、これらはどこに育つものですか?」

「エルフの国エル・エルムディアのみに育つものですね」

 ということは、黄の瓶はエルフの飲み物……?

 でも、エルフの品は食べ物関係では流通している物なんてなかったような。布とか服飾品、木製の工芸品がほとんどだったはず。

 だとすると、次の行き先はエルフの国ってことになる。


 あれ。そういえばエルフの国って、

「エルフ以外立ち入り禁止、だよ」

 そう。なんでも特殊な環境だとかで、うっかり入り込んだら帰れなくなってしまうとか。それから、すべての植物の始まりという黄金樹、これを護るためでもあるらしい。

 あれ?おじいちゃんはエル・エルムディアに行ったの?手帳に場所が書かれていないのは、そのせい?

薬草酒は、ベルモット(白ワインにハーブを漬け込むお酒)をイメージしています。

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