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小舟を降りて馬車の小さな灯の下で、成果を確認した。採取できた泡玉は全部で十五個、この時季にしてはずいぶん手に入ったとシュウさんは言った。内訳はわたしが一つ、門倉さんが四つ、シュウさんが十。
「あんたいつの間に!?」
門倉さんが詰め寄った。うぅん、確かにいつの間に採ったんだろう。ずっとわたしの横で指導してくれていた気がするんだけど。
「泡玉を採取するのは私の役目ですから」
シュウさんはさらりと言った。手慣れているから、見つけたらぽんぽん採れるんだろう。だいたい、そうでなければお店に出すほど泡玉を手に入れられないはずだ。
それでも門倉さんは悔しそうだ。初めてなのに四つも採れたんだから、いいじゃない。わたしなんか、かろうじて一つなんだから。
泡玉は一つ一つ黒い紙に飴と同じように包み、シュウさんが持ってきた瓶に入れた。瓶も黒い布で覆われている。
「強い光に当たると、はじけてしまうのです」
「水の中でなくとも?」
「はい。それと気温の変化にも注意が必要です。差が大きいと泡玉がダメになってしまいます」
「温度管理ですか……」
旅の身の上には難しいな。
「どーなんの?」
「縮んでしまいます。小さくなるとサイダーになりません。包み紙と瓶は当店で使用している術をかけた品ですが、万全ではありませんので」
「そうですか……」
飲み物だからもともと温度管理は気をつけないと、とは思っていた。持ち帰っても『七つの瓶』を形成しなくなるんだったら、もっと対策を考えないと。
でも今のところは、この包み紙と瓶を信じているしかない。
ところで。
「サイダーは今、飲めないんでしょうか?」
「そうそう!せっかく採れたんだしさ!」
飲んでみたい。十五個も手に入ったんだし、持ち帰るのはそんなに多くなくていいはず。
しかし、今は飲めないとシュウさんは首を横に振った。そのかわり、
「明日、晴れるといいですね」
などと言う。
明日の天気が、なにか関係あるんだろうか。晴れているほうがおいしいってことかしら。
理由を聞き出そうと粘ってみたけれど、結局シュウさんはそれ以上説明してくれなかった。
いくら妖魔の出る確率が低いとはいえ、暗くなると危険だ。野生の獣に襲われることだって考えられる。危険な目にはできるだけ遭いたくないので、わたし達はまた馬車に乗って町に戻った。
閉店した喫茶クローバーでは、リュベルさんとアリアさんがわたし達を待っていてくれた。成果を報告すると、二人もやっぱり明日晴れるといいね、と言う。
明日、晴れたらお昼に喫茶クローバーで、という約束をして、わたし達は分かれた。
日は暮れたものの、町はまだ活気があった。人通りもあんまり減っていない。さすがに治安のいい国だ。
しばらく二人とも無言で歩いていた。
やがて大きく息を吐いて門倉さんがぼやいた。
「……なんかすっごく意味深だねぇ」
「そうですね……晴れじゃないとサイダーにならないんでしょうか」
「それじゃー商売には出さないんじゃない?」
「いえ、より期間が限定されて、かえってお客さんが増えると思います」
「あそーか。晴れなら飲める、と思ったら行くかも」
わたしは空を見上げた。星が出ている。今夜の天気はいいみたい。
サイダーと天気が、どう関係するんだろう?
「明日を楽しみにするしか、ないですね。明日になればわかるってことなんですから」
「そだねー。今日はさっさと休もうか」
振り返ってみれば、街に着いてからずっと動きっぱなしだった。自覚してみれば、体はとても疲れていた。
明日のためにも、ゆっくりしよう。
翌日。朝目をさましたわたしは、まずカーテンを開けて外の天気を確認した。晴れだ。雲がぽこりぽこり浮いているけれど、秋晴れだ。
昨夜は夕飯のあとお湯を使ってすぐに寝たので、しっかり休めた。体調は万全だ。
「おはよ。ばっちり晴れたねー」
「おはようございます。晴れましたね」
朝ご飯を食べて、宿をあとにする。
さて、どうしようか。お昼が待ち遠しくて、気もそぞろだ。
落着かないまま、せっかく来たのだからと町中を観光してみた。古い町だから見所は山のようにあるので、目的地には事欠かない。
でも、あまり楽しめない。お昼の約束が気になって気になって。
こういう時の時間の進み方って、すごく遅く感じる。昨日の夕方はあんなに短かったのに。
ようやくお昼近くになったので、わたし達は喫茶クローバーへ向かった。
「いらっしゃいませー」
笑顔のリュベルさんが迎えてくれた。しかも、今日もお客さんでいっぱいなのに、席を空けておいてくれていた。
「いい天気でよかったですねー。サイダーはこれくらいいい天気じゃないとー」
それはそうかもしれないけれど、どうしてここまで天気にこだわるのだろう?
「うん、時間もちょうどいいですねー」
足下と空を見て、リュベルさんはにこにこしている。天気の他に、時間も大切なの?
席に着くと、シュウさんが水の入ったコップを二つ、運んできた。
「冷やしたレモン水です」
テーブルに置くと、シュウさんはサイダーの作り方を教えてくれた。
コップを太陽にかざすように持ち上げる。その中に、泡玉を落とす……と。
「あ……!」
泡玉からしゅわぁ……と泡が立ち上ってきた。やがてぱちん、ぱちんとはじける音が聞こえてくる。
「晴れた日の影が一番短い時、太陽の下で泡玉を水に落とす、これがサイダーの……『記憶は水底、影に沈む遠い思い出』の正しい作法です」
「さ、飲んでみてくださいー」
どきどきしながら、サイダーを口に含んだ。
わぁっ、口の中でぱちぱちはじける。
「おいしい……!」
「うっまーい!!」
レモンの甘酸っぱさと、ぱちぱちはじけるのがぴったり。ものすごく爽やかで、サイダーってこんなにおいしかったっけ。
すると足下から、ふわっとなにかが立ち上ってきた。なに?




