ヒーロー登場
昔から困ってるやつや、悲しんでるやつ。
色んな人を見てきた。
色んな人を放っておけなかった。
イジメがあったら止める。
喧嘩があったらなだめる。
そうしてきた。
皆に感謝されたし、
皆が笑顔になったんだ。
悲しんでたヤツも、怒ってたヤツも。
全部、俺が元気にさせた。
誰かが笑ってくれるのが、うれしかった。
今回も、助けようとしたんだ。
工事現場。
上から大きな木材が落ちてきたんだ。
たぶん、クレーンの紐が切れたんだろうな。
真下には、子供が居た。
だから、俺は子供を思いっきり突き飛ばして、何とか助けた。
突き飛ばしたのは悪かったな。
謝りたかった。
けど、もう無理だ。
俺は死んだみたいだ。
神様に、会ったよ。
俺が死んだ事を、教えてくれたよ。
けど、ダメなんだ。
まだまだ困ってる人は増えていくんだ。
それを放って死ねないよ。
【まだ、誰かを助けたいか?】
「当たり前だ!!悲しむ人が居るんだ!!」
【人を助けて自分が死んだのに、か?】
「あぁ!!俺の事はどうでもいいんだ!!!」
【ふ・・・む。
・・・それなら、特別だ。
もう一度生き返らせてあげよう。
しかし、生きる場所は違う】
「場所・・・!?」
【あぁ。
お前が生きて居たところと、全然違う。
いや、地形は一緒だが・・・時代とかが違う。
そこには、悪がたくさんいるんだ。
簡単に言えば、特撮物の悪の組織がある。
お前はヒーローになるんだ。
なぁに、アニメの主人公になったとでも思えばいい。
そこで存分に生きろ】
全く言ってる意味が分からなかった。
けど、人を助けられるなら・・・
「分かった。そこに行く・・・!!」
【よし。
お前は今からヒーローだ。
一応名前は変えておけ。
そうだな・・・お前は今日から、牙龍だ】
「牙龍・・・」
【いいか、あっちでは身体能力が大幅に高い。
だから多少高いところから落ちたりしても大丈夫だが・・・
あまり、無茶をするなよ】
「あぁ。ありがとう」
【それじゃあ、二度目の人生だ】
最後に神様が何か言った。
けど、キィンと言う耳鳴りがして、聞きとれなかった。
そして目の前が真っ白になったかと思うと、
どこか荒れた土地に立っていた。
空は真っ黒で、人が居る気配がない。
けど、どこか見慣れたような場所だ・・・。
ふと辺りを見渡すと、看板らしきものが見えた。
「・・・仮草町・・・」
俺の・・・住んでた町だ。
何でこんな・・・町全体が廃墟じゃないか。
――――あぁ、神様が言ってたな。
今は悪の組織が居て、時代は違って、俺はヒーローで・・・。
いや、考えてる時間は無い。
今は悪がある。
俺はヒーロー。
なら、早く人々を助けないと・・・。
・・・とはいえ、何処に行けばいいのか分からない。
俺が住んでた町とはいえ、時代が違うだけあって全く地形が違う。
とにかく、適当に歩くか・・・。
しばらく歩いていると、誰かの声が聞こえた。
悲鳴・・・みたいな声だ。
聞こえた方に行ってみると、一人の女の人と、真っ黒い服を着た人が数人いた。
「や・・・やめて・・・!!殺さないで・・・!」
「当たり前だァ。殺しャしねェよ。
お前も知ッてるだろ?
男は家畜。女は奴隷・・・!!!
さァ、我等が城に行こうじャないか・・・」
「い・・・いやぁぁ!!
誰か・・誰か助けて・・・!!!」
「ははは!!俺達に逆らうヤツが居ると思うか!?」
会話を聞いただけで、
アイツらが悪の組織の一員ってのは漠然としている。
だが、どうすりゃいいんだろう・・・。
・・・迷うな。
困ってる人が居るんだ。
それなら助ける。
「助けるっ!!!!!!」
俺は思いっきり走った。
何だか、かなり足が速くなった気がする。
身体が軽い。
女の人と黒いヤツ等の前に、ザッと音をたてながら立った。
「・・・何だ、お前?」
「その人を離せよ」
「ハァ!?何だッて聞いてんだよっ!!!」
「俺は・・・牙龍・・・。
この世界の・・・ヒーローだ!!!!」
「・・・クッ!!ははははは!!
ヒーローだッてよ、バカじャねェの!?
さて、俺達に逆らうんだな?
じゃあ・・・・死ねッ!!!!!!!」
「・・・もう、死ぬのはゴメンだっ!!!!!!!」
バッと跳びかかって来たヤツに、反射的に殴った。
すると、ソイツは、一瞬で地に堕ちた。
俺・・・こんなに力強かったっけ?
他のヤツ等は愕然としている。
「殺すんだろ?かかって来いよ」
俺の調子に乗った一言に、
漫画のように血管をブチブチと切る音をさせながら
他のヤツ等も跳びかかって来た。
一人を軽くかわし、
一人を思いっきり殴り、
一人を掴んで、
一人に投げ飛ばす。
テンポよく、隙は見せずに次々にヤツ等をぶちのめす。
かなり、楽しい。
と言ったらアレだけど・・・楽しいんだ。
そうしてる間に、そこに居たヤツ等は皆倒した。
女の人がタタタと寄ってくる。
「あの・・・ありがとうございますっ!!」
「いえいえ、困ってそうでしたんでね」
「も・・・もう一度お名前を聞いてもいいでしょうか・・・」
「あぁ、名前。 牙龍です。この世界の悪を倒す、ヒーローです!
・・・って言ったら、バカみたいですけどね」
そう言って苦笑すると、女の人は静かに首を振った。
「バカみたいじゃないですよ。
確かにアナタはヒーローです・・・。
私にとっては!!」
「そうですか。ありがとうございます。
それじゃあ、俺はもう次の人を助けなきゃ」
「ヒーロー、ですもんね」
「はい!!」
そうして女の人と別れて、俺はまた適当に歩き始める――――。