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ドロドロに溶けた太陽の下で

日曜日の朝、特にやることが無かったので散歩に行くことにした。


自分の家であるクジラの口から出る。


「……暑いな」


空には太陽が三つ。


今日もご苦労なことだ。


「ずりゃー、どりゃー!」


ホースで水を撒きながら歩く。


ホースがそれ以上伸びなくなったので、近所の家に投げ込み逃げた。


「こん、こんっ……お腹空いたよぉ……こん、こん」


道を歩いていると、道端に蹲っている少女を見つけた。


今日の俺は紳士寄りなので、優しく声を掛ける。


「どうしたんだ?」

「お腹が空いたんです……こん、こんっ」


そりゃ大変だ。


腹が空いては何とやら、人類皆兄妹、助けることにしよう。


今日の俺は弱い者を見捨てることが出来ないモードだ。


「では狐の少女よ。この稲荷寿司をやろう」

「い、いえ……稲荷寿司は遠慮しますぅ……ゴキブリの次くらいに嫌いなので……」

「なんと」


まさか狐の癖に稲荷寿司が嫌いだとは……バナナ嫌いなゴリラ、勉強嫌いの吉田君みたいなもんか。


どの時代、場所にもこういった異端な存在はいるもんだなぁ。


というかよくよく考えてみると、俺稲荷寿司なんて持ってなかった。


仕方ない、このおやつに取っておいた芋ヨウカン(手作り。ちなみに一番得意なお菓子は苺豆腐)をくれてやるとしよう。


「この異様に甘いヨウカンをやろう、狐の少女よ。なんか甘すぎて怖いけど、病み付きになるぞ」

「ありがとうございますぅ。あ、あと私は別に狐の女の子じゃありません」


細長いヨウカンを心なしかエロス漂う持ち方をする少女。


なんと狐の少女ではないらしい。これには俺もびっくり。


もう二度と狐なんて言わないよ。


「だが、先ほどからこんこんと鳴き声を」

「風邪です……こんこんっ」

「そうか、うつすなよ。うつしたら責任を取って結婚してもらうからな」

「け、結婚ですか!」

「俺の父親と」

「ゴメン被ります!」

「今なら母親もついてくるぞ?」

「シュラバーはゴメンです!」


そういえば両親は元気だろうか?


俺が20歳になったおり、二人で山に芝刈りに行って以来帰ってこない。


しょうがないので俺が今でも川で洗濯をする当番を続けているのだ。


桃は流れてこない。


さて、狐少女はヨウカンを一本丸ごと食べて可愛く小さなげっぷをした。


「ありがとうございました! この御恩は覚えてる限り忘れません!」

「うむ、その心意気やよし」


ただ忘れません、なんて口約束は信じられん。


いっそここまで開き直られたほうが心地いい。


「お、お礼と言ってはなんですが……こんっ」

「うん?」


口の端のヨウカンのカケラをつけた少女は薄く頬を赤く染め、小さな手を両手で組んだ。


そのまま上目遣いで見つめてくる。


「あなた様のところに……こんっ、お嫁に行きます……こんっ」

「遠慮するこん」

「……ここん」


うなだれた。


「では代わりにこの棒を差し上げます」


そうしてスカートの中から棒を取り出してきた。


こ、この棒は……!?


「ぼ、棒だ!」

「はい、棒です……こんっ、棒です」

「こん棒……そうだ、この棒はあれを何やかんやする……あの棒か!」

「はいあの棒です」

「い、いいのか……こんな大層な棒を。……お高いんじゃないの?」

「いえいえ。その棒は我が家に伝わっているわけでもないその辺に落ちていた棒ですが……あなたになら託してもいい、そう思います、こんっ」


そんなにまで俺のことを信頼しているのか……。


ぐっと棒を握り締める。


先端から粘液状の緑色の液体が出てきた。


その液体をペロリと舐める。


ペロ、これは……クリームソーダ。


そう、この味はファーストキッチンのメロンクリームソーダ!


氷少なくしてもっと量を多くしろ。


「ありがとう大切にするよ」

「はい、それを私だと思って大切にしてください、こんっ」


狐の少女と別れて再び散歩に戻る。


棒をぶんぶんと振り回しながら、せがた三四郎の歌を裏声で歌う。


道端の死んだように倒れていたおじいちゃんが、歌にあわせる様に立ち上がり歌にあわせる様に軽快なステップを繰り出した。


ボクサーがサイボーグ相手に壁際を利用した大ダメージコンボをお見舞いした。


空から落ちてきた少年少女とサングラスのおっさんが手を取り合いバルスと叫んだ、おっさんは眼を押さえながら天に舞い上がった。


入れ替わるように魔女に助けられなかった少年が落ちてきて目の前で潰れたトマトになった。


俺はホップステップジャンプ、錐揉み回転をしながら空き地に滑り込んだ。


「インしたお!」


そのまま土管に突撃。


跳ね飛ばされた土管は隣の雷さんの家に突っ込んだ。


「またか!」


雷さんの怒鳴り声。


俺は匍匐前進をしながら、猫の死体でカモフラージュ率を上げ空き地から脱出した。


ズリズリ。


ズリズリと匍匐をしながら裏山に到着。


この場所は俺だけしか知らない。


俺の場所。


このような場所が世界各地に8つほどあったりするらしい。


「にゃー、にゃー! うーん、にゃー!」


しかし俺の場所であったはずの場所は既に俺だけの場所ではなくなっていた。


つまり先客である。


猫耳を生やした猫耳子が俺の場所の中心に聳え立つ巨大な木にピョンピョンと飛びついている。


新しい技の開発だろうか?


懐かしい、俺もああやって新しい技を木に繰り出すことで、自らを昇華していた夏の日。


あの木の傷一つ一つが若い頃の思い出のかけらだ。


本来の俺、ダークサイドに浸っている俺ならばこの不埒な侵入者にカブト割の一撃を食らわせてやるところだが。


ところがどっこい今日の俺は紳士中の紳士。英語で言うならシンシスト。シンサー。シンセパンツァー!


仏のような心で幼子に接するのであった、まる。


「一体何をしているのか、小娘よ? 対空技の練習? もうちょっとフレーム数小さい技にした方がいいと思うよ。でもやりすぎると調整されちゃうから注意」

「んにゃ? 違うにゃ。ウチの大切な物が木の上に引っかかっちゃったんだにゃ。何とも世知辛いことにゃー」


パタリと困った顔に追従するように猫耳が伏せた。


が、すぐにその鋭い眼が俺の持つ棒に止まった。


「そ、その棒は!」

「ノーザンクロスだ。命名は俺」

「それ貸してにゃ!」

「だがこのノーザンクロス、資格が無い物が手にするとそれはもう恐ろしいことになる。書いた小説が壮絶に面白くなくなったり、自信満々で投稿したものがボロクソに言われたり、感想板が炎上したり、変な人が感想板に湧いたり……あな、恐ろしや!」

「いいから貸すにゃ!」


ふ、いいだろう。


これも世界の意思。全ては黒色彗星の名の下に!


俺の手元から離れるノーザンクロス。


「それで木をなぎ倒すのか?」

「違うにゃ! そんな危ないことはせんにゃ。限りある資源は大切に、にゃ」


確かに。


枯渇えと向かう資源。


他人事だと、自分には関係ないこととは思ってはいけない。


みんなが力を合わせて考える問題だ。


さて、猫耳少女はノーザンクロスをどう使うのか?


「えいっ、えいっ、にゃにゃ!」


ふりまわしたのだ!


あ、あの刀軌(造語。刀の軌跡)……も、もしや☆流れの太刀!?


ああ、なんと素晴らしい!


とかなんとか適当に驚いていたら、ノーザンクロスが木に引っかかっていたブツを弾き下とした、お見事にございまする!


猫耳少女はブツを拾い上げて頬ずりをする。


「にゃー、にゃー……うにゃーん」

「にゃんだねそれは?」

「これかにゃ? これはマグロにゃ」


マグロときた。


うむ、確かにマグロだ。脂がのっていて旨そうである。


じゅるり。


「や、やらんにゃ!」


遠ざけられた。


「触手のところでいいからくれよ」

「……むー、まあ……それぐらいにゃら」


やったね! 言ってみるもんだよ。


猫耳少女は少し未練がましく、マグロから触手を引きちぎりこちらに寄こした。


おおう、ピチピチとして生きがいい!


あ、ら、らめ! そ、そんなところに入っちゃらめぇぇ!


「では代わりにこの棒はもらっていくにゃ」

「それおかしくね?」

「何故にゃ? ブツブツ交換にゃ」


あなたのニキビと私の吹き出物をこうかーん。


そんな感じか。


つか、この触手はマグロを取る為にノーザンクロスを貸したお礼だから、ブツブツ交換する為にはまた少女からなんかもらわないと釣りあわないというかもうなんでんももいいか。

 

「分かったよ、大切にしろよ」

「うむにゃ。一緒に寝るにゃ」


よっぽど気に入ってくれたらしい。


マグロとノーザンクロスを両手に抱えた少女はホクホクとした顔で俺の場所、もとい元俺の場所から去った。


さて、俺も行くとしよう。


――。


「えーん、えーん」


商店街の中を歩いていると、泣いている妖女(幼女にあらず)を発見した。


やはり紳士が天元突破している俺は、見過ごすことなど出来ず触手に穴を責められながら妖女に近づいた。


「へい、どないしたんユー? 飼っていた石製インコが死んだのかい?」

「えーんえーんえーーーーーーん!」

「な、なんだよ……英語で言ってくれよ」

「ドルドルドーーーーール」


おお、なんか欧米っぽい泣き方だ(主観的に)


これが地下だとペリペリペリーーーーカみたいな泣き声になるのかしら?


「ほら泣いてばかりいないで、木村拓哉に似ていると近所で噂されてる俺に言ってみな?」

「似てないよ」


マジ顔で言われたよ。


いや、まあ嘘なんだけどね。


木村拓哉から木村拓哉を引いた感じって言われたんだけどね、俺は無かよ。


「あ、あのね、お母さんがお家からいなくなっちゃたの!」

「予想外にハードだな」


てっきりおつかいの内容を忘れたとか、友達とはぐれたとか、DVD版なのに湯気が消えないとか可愛い悩みだと思った。


「じゃあ家に一人なのかい?」

「ううん。働かないお父さんと部屋からかれこれ3年出てこないお兄ちゃんがいるよ」

「ヘビィ!」


俺は痙攣しつつのけぞった。


もう、この子は普通にグレてもいいんじゃなかろうか。


「マ、マザーは何ゆえ出て行ったのか?」

「最近ちまたで噂の魔王様を倒しに言ったの」

「グレイトォ!」


あれか、働かない家族のために魔王を倒して財宝がっぽがっぽか。


てっとり早く金銀を手に入れるいい方法だね。


「なるほど、だから泣いていたのか」

「ううん、それはまた別。親がいるだけマシだし。世の中もっと不幸な人もいるからね。……お兄ちゃんも結構不幸でしょ?」

「まあね、気の持ちようだけどな」


こんな世の中だ。


下を見ればいくらだって下はいる。


大切なのは自分を見失わないこと!(ちょっといいこと言った)


「じゃあ何で泣いてたんだ?」

「……うん、空を見て?」


妖女の言の通り上を見る。


電柱に死体が引っかかっている。


既に3つの太陽は沈みかけ、夕暮れになっている。


辺りでがコカトリスが泣いている。


「……夕暮れを見てたらね、何か涙が出てきちゃったの」

「惚れる!」


この子なんかかっこいい!


それはそうとしてそろそろ帰らないと危険だ。


うむ、この流れ的に…


「この触手をあげよう」

「……わ、可愛いっ」


俺を亀甲縛りにしていた触手は喜んで妖女の元へ行った。


やはりむさい男より可愛い妖女の方がいいんだろう。


「で、何かくれ」

「自分で渡したのに。……ま、いいや。はい」


何となく納得できない顔で妖女は自身の影の中から袋を取り出した。


「あげゆ」

「ありがちゅー」


袋をもらい投げキッスをした。


妖女と別れ帰路につく。


帰り道、首の無いヒーローに袋を押し付けかわりにヒーローの乗っていたバイクをもらう。


バイクを乗り回していると免許を持ってないことを思い出したので、汚染された警察所に突っ込み拳銃を2丁ほど頂いて帰った。


ガン=カタでゾンビを撃退しながら帰るとおっぱいのでかい女の人と、お腹を出したcv櫻井の人が現れたので一緒にカナードを撃退した。


勝利の余韻に浸っていると、すっかり夜が更けてしまい、体がドロドロと溶け出した。


「こりゃいかん」


ドロドロとした粘液を垂らしながら全力粘走(造語。ドロドロしながら走ること)で家へ急ぐ。


途中哀れにもドロドロに溶けきってしまったモノがいたので、ありがたく吸収していく。


「チェイサー!」


夢色な感じで飛翔。


「見つけたお!」


住居であるクジラを発見。


夜になったので骨だけになっていた。


「ブラザーインアァァァァァムズ!!!」


合言葉の共に帰宅。


「……ふぅ。危うくドロドロのドロロさんになってしまうところだった」


ここで、兵長か治虫っちの漫画のどちらを思い浮かべるかで大体歳が分かる。


「オカエリナサイ、マスター」


作りかけのメイドロボットが出迎えてくれた。


「今日の食事は?」

「タベマシタ」


喰ったのかよ!


何かって聞こうとしたのに!


喰ったのかよ!


「じゃあいいよ。風呂」

「タベマシタ」


喰ったのかよ!


雑食だなぁ!


「デハ、ネマス」


自由だなぁ!


何だよお前!


乙女回路とか内蔵したじゃん!


乙女なハートとかどこいったんだよ!


わがままハートが走ってるなぁ。


もう、俺灰かぶり姫じゃなくていいや。


――ゴマエ~、ゴマエ~。


む、腹が鳴った。


冷蔵庫に何かあっただろうか。


冷蔵庫を開ける。


「……何も無いわよ」

「そ、そうすか」


冷蔵庫に住んでいる妖精さん(ツンデレ)さんがアイスを食べながら言った。


「……いつまで見てんのよ。今からお風呂に入るんだからさっさと出て行ってよ」

「す、すんません」

「べ、別にあんたの為にお風呂にはいるんじゃないんだから! 勘違いしないでよね!」


意味が分からないので冷蔵庫を閉める。


『カッサイセヨー、カッサイセヨー』


お、電話か。


埃塗れの電話を取る。


「ざわざわ森の~?」

『ガンコちゃ~ん』

「おお、3号さんか。何か用?」

『こんばー。明日の宿題やったかなー、って』


……宿題?


ああ。確か出てたな。


「何か週刊誌に持ち込む漫画のネームを書いて来いってやつだろ?」

『それそれ。あれ意味分からんよね。しかも数学の宿題だし』

「だな。まあ書いたよ」

『どんなん?』

「<とってもヤッターマン!>って漫画。口癖が『ヤッター、ヨッシャー、――万死に値する』って主人公が海賊王になる為にハンター試験に行って、東条さんとラブコメちゅっちゅする話」

『あの先生パクリは怒るよ』

「お、お、お、おおおおオマージュですぅ! 変なこと言わんといて!」

『まあいいけど。じゃ、明日ね』

「ああ、ルラーダフォルフォル」

『相手は死ぬ』 


ガチャン。


うん、いい友人だなぁ。


わざわざ俺が宿題のこと覚えているか確認してくれるなんて。


もしや俺に惚れてるのでは!?


いや、惚れてるね。


むしろこの世の中全ての生物が俺に惚れてるね。


やっべ、俺世界の中心。


いずれ俺を中心としたカタスロフが発生して世界は崩壊。その後発足した連合国家が宇宙に住むスペースノイドと戦争。核という核をうちまくり人口の9割は消失した。後のラグナロクである。


宇宙郡と連合の間で協定が結ばれ、戦争の舞台はネット上へと移行。


これがラグナロクオンラインである。


人が死なない戦争、これは一体何をもたらすのか? 命とは? 死とは? 善とは? 悪とは? 善悪相殺とは?


全ての答えがこの夏に。


『劇場版・ラグナロクオンライン 同時放映・シオンたんの夏休み――coming soon』


「……なるほど」


良く分からんが世界の真理に近づいた気がするぞ。


「それはそうとして明日は学校だ」


うん、寝るか。


目覚ましを69時にセット。


押入れから布団の様な物を取り出しベトリと敷く。


服を全て脱ぎ、じっとりとした布団の様な物にもぐりこんだ。


「……おやすみ」





――そして明日も堕ちて行く。



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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだこれ(狂喜) [気になる点] なんだこれ(困惑) [一言] なんだこれ(白目)
[良い点] わけがわからない世界観、人間には早すぎたのだ。 [気になる点] 最後にオチが欲しかったです。 [一言] 個人的にはこのカオス度が素晴らしい。ここまで行くといっそ清々しい。
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