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冒険者ギルドの記録員  作者: 六花葵
第一巻
22/36

記録8-4 遺世の地下城――アイテムボックスの持ち主が死した後に残るもの。

冒険者ギルド本部 ”応接室”


 アイナから聞いた時間通り、依頼人への敬意を表して、俺は早めに集合場所へ到着した。  すると間もなく、意外なことにイリスニアまで姿を現した。


「会長?」 「アイナからあなたがもう着いていると聞いてね。出発前に少し話しておこうと思って。アイナは今、依頼人を迎えに行っているわ」


 お話だと? 俺の業務能力を疑ってのことか?


「そんな顔をしないで。あなたの腕を疑いに来たわけじゃないわ。今回の依頼人のパーティーが……少々厄介でね。あなたに注意しておいてほしいの」


「今回の任務、ギルドの推薦が必要だと言ったけれど、実質的には私に人選が任されていたのよ。そこへマリーが絶妙なタイミングで現れて、あなたのことを話した。だから私は、あなたに白羽の矢を立てたのよ」


 イリスニアは表情を引き締め、真剣な面持ちで言った。 「もし任務中に危険が生じたら、可能な限り依頼人を守ってあげてほしい。あの子は……私の姪なの」


 なるほど、コネ絡みの依頼というわけか。俺は合点がいったような顔をした。


「それから……彼女は身分が特殊ゆえに護衛がつくのだけれど、その護衛たちが……なんと言いますか、あまり人間を好いていないようでして」


 ったく、また差別主義者レイシストかよ。村を出てまだ数日だってのに、こうも立て続けに奇人にぶつかるとはな。俺は思わず冷笑を浮かべた。 「なな、お前のその棒の名前が決まったぞ。今日からこいつは、**『世界核平セカイカクヘイ』**だ」


「せかい、へいわ……?」  レシナは不思議そうに小首をかしげて、俺を見つめた。


「ああ。平和へいわと書いて核平カクヘイと読む。お前がそれを手にしている時は『世界』を意味し、それを振りかざした時は、相手に『核平』を届けてやるんだ」


 レシナは名付けられたばかりの棒を抱きしめ、うっとりとした表情で呟いた。 「レが、世界を私にくれた……」


(いや、俺が届けてほしいのは他所への核平なんだが)


 決めだ。今後、道理の通じない奴がいたら、レシナにそいつと『道理』を説かせてやる。  真理を手にすれば、人類は皆、平等になれるはずだ。


 俺たちがデタラメなやり取りをしているのを、イリスニアがわけがわからないといった顔で見守っている。 「盛り上がっているところ悪いけれど……あなたたち、絶対に別の話をしているわよね?」


「ところでレスト、あなたはアイコロ村にいた頃、ダンジョンの経験はなかったわよね」


 俺は頷いた。あの場所はこの街に比べれば田舎だ。昨日、資料室で予習しておこうと思ったのだが、例の馬鹿どもに邪魔されてしまった。


「なら、簡単にダンジョンの情報を教えておくわね。まず、ダンジョンには二つの種類があるわ。一つは天然のダンジョン。様々な偶然が重なって形成されたもので、内部は予測不能。ダンジョンマスターがいることもあれば、秘宝が眠っていることもある天然の迷宮よ」


「けれど、あなたが今回向かう場所は後者。**『遺世レガシー』**ダンジョンと呼ばれる場所よ。前者とは違い、それは人為的なものなの」


 イリスニアの言葉に、俺は思考を巡らせる。前者のダンジョンはわかる。ラノベを読んだことがある人間なら、誰でも知っている常識だ。だが後者の……「人為的」という言葉は、なかなか興味深い。


「何を利用して造り出すのですか?」


 俺の疑問に、イリスニアは首を振った。


「呼び名の通りよ。人が死した後に生まれるの。正確に言えば、アイテムボックスのような収納空間を持つ者が死んだ際、稀に発生する現象のことね」


「条件は非常に苛烈で、確率も低いわ。まず、その者のアイテムボックスが一定の規模以上であること。あるいは、その者がこの世を去る際、ボックスの中に魔力が異常に巨大なものが存在していること。それがダンジョンの核となり、構造全体を支えることになるの」


 ほう。これは新奇な設定だ。聞いたことがない。


「では、そのダンジョンで生成される宝物というのは、それらの遺物だと?」


 イリスニアが頷く。 「天然の宝箱の中身は予測不能だけれど、人為的なものは違うわ。後に残り、宝箱として現れるのは、一定の魔力量を持つものや、生前の主人が大切にしていたもの、印象に残っていたものがほとんどよ。なにせ、彼の意識によって生成される場所なのだから」


「……なら、アイテムボックスの空間が巨大であれば、死後にダンジョンになる可能性がある、ということですか?」  俺は自分の死後の心配をし始めた。


 イリスニアは笑って言った。 「安心して。空間の大きさだけで形成されるダンジョンなんて極わずかよ。そういう場所は天然のものと大差ないわ。歴代の勇者たちが残したダンジョンも、空間の広さというよりは、彼らが遺した物品が原因で形成されたものが多いの」


 俺は沈黙してイリスニアを見た。 (……なるほどな。未来の俺が死んだ後、そこには矢と食料とポーションしか入っていないクソみたいな巨大迷宮が誕生するわけだ。ドロップ率最低のその場所で、性格の悪いドラゴンがボスとして君臨する……世界への悪意そのものだな)


 そんな雑談を交わしているうちに、約束の時間が訪れた。


 アイナがようやく、依頼人を伴って部屋へと入ってくる。

中国語では「和平(平和)」と「核平(核による平和)」が同じ発音であるため、ここでは言葉遊び(シャレ)としてあえて「核平」の字をそのまま使っています。


・和平(形容詞:平和な、安らかな) ・核平(動詞:物理的・核的に平らげる)


このブラックユーモア溢れるネーミングに、皆さんもクスッとしていただければ幸いです。


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