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冒険者ギルドの記録員  作者: 六花葵
第一巻
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記録8-3 十五歳でキャリア十年の記録員、エルフたちの不信感

結局、ぼくは「時間が遅すぎる」という至極真っ当な理由で、その深夜の面会を丁重に拒絶した。  


実のところは、レシーナの「小さな情緒の嵐」を鎮めるのに手一杯だったからなのだが。  


『眠れる竜を起こすべからず』という格言があるが、その言葉の重みを、ぼくは今まさに身をもって痛感している。    


エロコ村にいた頃はあんなに寝付きが良かったのに、やはり慣れない環境が原因だろうか?  普段はあんなに従順な彼女が、一晩中大騒ぎだ。  


ぼくの腕に**「はむっ」と噛みついてきたかと思えば、小さな拳で「ぽかぽか」**と胸を叩いてくる。そうして涙目で、村に帰りたいと繰り返すのだ。  


(枕が変わって眠れないのか? いや、それとも今日の暴力沙汰が子供の精神に悪影響を与えてしまったんだろうか……)    


ぼくは仕方なく、久々に彼女を正面から抱きしめ、落ち着かせるように背中を撫でた。  


「抱擁は安心感を与える」というのは地球でもよく言われていたことだ。レシーナは、ぼくの前でだけ許される特権を行使するように、形ばかりの抵抗を数回繰り返した後、やがて安らかな寝息を立て始めた。


レシーナがもう少し成長するまでは、村に帰って大人しく待つべきだろうか。そんな考えが頭をよぎるが、一方で、この世界との新たな邂逅に期待を膨らませている自分もいる。相反する二つの悩みの中で、ぼくの意識もゆっくりと闇に沈んでいった。    


◇ ◇ ◇  


「殿下! あんな夜更けに殿方の部屋へ行くなど、何を考えていらっしゃるのですか!」    


ルミエルは、随行の侍女に厳しく叱責されていた。 侍女といっても皮鎧に身を包み、殿下の安全を守る護衛官でもある。  


「そんなに怒らなくても。独りで行ったわけじゃないわ、アイナお姉様も一緒だったもの」  


「同行者がいれば良いという問題ではありません! それにアイナ、貴女もです。王女殿下の我が儘をなぜ止めなかったのです。一族の戒訓を忘れたわけではないでしょうね?」    


叱られて項垂れているのは、今日案内役を務めたアイナだ。  


目の前で雷を落としているのは、エルフ衛士団の団長、カティア。一族の若手にとって、彼女は恐怖の象徴だ。厳格な戦闘訓練を生き延びたアイナにとって、カティアの言葉はもはや筋肉に刻まれた拒絶不能な命令に近い。    


殿下も間もなく遊歴の時期を迎える。王族とはいえ、外の世界では己の身は己で守らねばならない。衛士長は機会あるごとに殿下へ厳しい処世術を叩き込んでいた。もっとも、アイナから見れば、少々過保護が過ぎるようにも思えるが。  


「カティアは大げさなのよ。人間界の風習に倣って、今回の協力者がどんな人物か、ちょっと興味が湧いただけじゃない」    


我らエルフには女神の加護……あるいは人間とは質の異なる力が備わっている。『アイテムボックス』のような魔法も、我々にとっては天賦の才ではなく、道具を介して使用するものだ。    


また、我らには自ら地下城ダンジョンを探索し、資源を得るという習慣もない。だからこそ、人間社会で立派に地位を築いた皇妹殿下――イリスニア様を頼り、わざわざここまで出向いてきたのだ。

 

「殿下、イリスニア様からは既にその人間の資料を受け取っております。わざわざ会う必要などありますまい」    


ルミエルはベッドに横たわり、膝を抱えながら、レストの情報が記された報告書を指先で弄んでいた。   「レスト、十五歳、男性。能力は『アイテムボックス』。現在はB級記録員……。ここまでは普通よね。でも、カティア。この最後にある『実務経験十年』という項目、変だと思わない?」  


「十年……!?」  


「十年よ! つまり、私と同じくらいの年齢なのに、この人間はとてつもないベテランってことよ。イリス叔母様が言ってたわ。『冒険者という職業で十年以上生き残っている奴は、どいつもこいつも一筋縄ではいかない』って。だから、彼が熊みたいに屈強な男なのか、すごく気になったのよ」    


カティアは鼻で笑い、吐き捨てるように言った。  


「人間はそうやって虚勢を張る生き物です。魔法も使えず、ただの『荷物持ち』程度の能力しか持たぬ男。イリスニア様の保証がなければ、私は他の者を選んでいました。地下城ダンジョンに入れば、足を引っ張る彼を護衛する羽目になるのが目に見えています」    


その言葉に、アイナは勇気を振り絞って反論した。  


「……レスト先輩は、とても優秀な記録員です! 決して足手まといになんてなりません。衛士長は人間に偏見を持ちすぎです。冒険者を職業として成立させている人には、必ずその人なりの『光るもの』がある……。これは記録員としての私の観察です」    


カティアは驚いたようにアイナを見た。  


若い世代のエルフが自分に意見するなど、これまで一度もなかったからだ。正確には、その「勇氣」を持つ者がいなかった。


しかし、その反抗的な態度を面白がるように、彼女は薄く笑った。  


「ほう……少しは見どころが出てきたようだな、アイナ。よかろう、間もなく集合時間だ。貴様の言葉が正しいのか、それとも私の直感が正しいのか……そこで証明されることになる」

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