記録8 【新たな火種?】無能な副ギルド長と、お忍び王女の好奇心
その日の晩、ギルドの会議室にて――。
「ギルド長! あいつはあまりにも無茶苦茶だ! ちょっとした口論で人をあんな目に遭わせ、挙句の果てに職権を利用して強制退役させるなんて……。それが記録員のあるべき素養か!」
腹の出た、およそ冒険者とは思えない不摂生な体つきの禿げた中年――バド副ギルド長が、机を叩いてエリシニアを問い詰めていた。
「落ち着け、バド。報告書を見る限り、事実はそうではないようだが」
「報告書はギルド長の弟子が提出したものでしょう! ギルド長、あなたは弟子を偏愛しているんだ!」
「アイナの記録員バッジに虚偽の反応はなかった。彼女が事実を報告したと証明されている。ほかに何か問題でも?」
バドは歯を食いしばり、忌々しげに吐き捨てた。 「ギルド長も知っているはずだ。そんなもの、いくらでも抜け穴はあると」
「アイナならそこにいる。問い詰めたいなら好きにすればいい。質問したのはお前で、第三者の誘導もなかった。それでもまだ、何か問題があるのか?」
エリシニアが公務として淡々と、事態を収束させようと振る舞う。 その超然とした態度に、バドの光り輝く頭頂部がいら立ちで赤く染まっていく。
「エリシニア……覚えておけよ。ギルドがお前一人の思い通りに動くと思うな!」
バドは激昂してドアを叩きつけ、部屋を去っていった。 アイナは居心地悪そうに、自分の師匠を見つめている。
温和な性格のエリシニアも、流石に今は微かな憤りを感じているようだった。 彼女はこめかみを指で押さえ、力なくため息をつく。
「……数十年おきに繰り返されるこの権力争い、いい加減に消えてくれないかしら? やはり管理層に短命種(人間)を入れるべきではないわね」
大きく深呼吸をして、いつもの調子に戻ると、エリシニアは再びアイナに向き直った。
「さて。さっきの馬鹿が聞いた質問以外に、私への個人的な報告で付け加えることはある?」
アイナは首を横に振った。 エリシニアは椅子の背もたれに深く体を預け、天井の浮彫りを見上げながら呟く。
「マリーのやつ、一体何を育て上げたのかしらね……」
「あの……バド副ギルド長の件は?」
「放っておきなさい。あんなのただの愚物よ。四六時中マリーの弱みを探しているけれど、思考停止しているマリーにすら手出しできなかった連中だもの。レストという少年……私が見るに、彼は道理が通じない相手なら、迷わず机(ちゃぶ台)をひっくり返すタイプね」
「では、先輩の処分は?」
「規約通りに処理するわ。そうすればバドも文句は言えない。もし規約通りに処理しなかったら?」
エリシニアが冷たく微笑む。
「……その時は、バド派閥の冒険者たち全員分の退役報告書を準備することになるわね。良くて退役、最悪それ以上の結末よ。ただの『アイテムボックス』持ちでありながら、当然のように『弱肉強食』を口にする男よ? 彼が食物連鎖のどの位置に立っているつもりか、想像もつかないわ」
「あらあら、誰が私の伯母様をそんなにエキサイトさせているのかしら?」
会議室のドアがわずかに開き、その隙間から可愛らしく悪戯っぽい顔が覗いた。 ゆっくりとドアが開かれ、一人の少女が軽やかな足取りで姿を現す。
彼女はレシーナより少し年上に見えた。 甘い顔立ちに、動きやすそうな平服を纏っているが、その立ち振る舞いには隠しきれない上位者の優雅さが漂っている。 もっとも、今の彼女はその小悪魔のような表情のせいで、優雅さよりも「お転婆」な印象が勝っていたけれど。
「ジャジャーン! 伯母様の大好きな姪っ子――ルミエル王女、登場!」
その姿を認めた瞬間、アイナは椅子から転げ落ちそうになりながら、反射的に姿勢を正した。
「ま、待ってください、ルミエル殿下!? なぜここに……」
「しーっ! アイナ、ここに殿下はいないわ。あなたたちと一緒に探検に行く、ただの冒険者がいるだけよ」
ルミエルはアイナにウィンクをして見せると、エリシニアの方を向き、獲物を見つけた猫のように笑った。
「伯母様、さっき面白い話が聞こえたわよ? 道理が通じないと机をひっくり返すレスト……。それって、最高に面白そうじゃない?」
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