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冒険者ギルドの記録員  作者: 六花葵
第一巻
18/21

記録7-4 【理系な制裁】肺を満たす水と、無慈悲な攻城弩

ふむ、上出来だ。

   

死に物狂いで記録員向けの法条を叩き込んだ甲斐があった。  


法律も一種のまほうではないか。  


「でも、先輩……っ」    


アイナが何を言わんとしているのか、相手もようやく理解したようだ。その表情は、いじめっ子が初めて反抗に遭った時のように、信じられないといった様子で引き攣っている。  


「お前、何を言って――ごふっ、ごほっ……!?」    


ぼくは不意を突き、そいつの顔面に手を叩きつけた。強化魔法で補助された五指は、まるで溶接されたかのように男の顔に固定される。    


同時に、掌の中に『アイテムボックス』を開き、口と鼻へ向けて一気に真水を注ぎ込んだ。    

瞬間的な窒息と激しいむせ込みが、男から正常な判断力を奪う。四肢をバタつかせ、まるで何かに縋り付こうともがく。    


ぼくの動作には一切の予兆がない。『弱者は怯えるものだ』と思い込んでいた彼らにとって、この認識の空白は致命的な隙となった。    


戦士が激しく悶え始めてようやく、残りの二人が『こいつ、狂ったのか!?』という衝撃から覚醒した。    だが、遅すぎる。二歩の距離など、強化魔法で加速したぼくにとってはコンマ一秒にも満たない。    魔導師が慌てて魔力を集めようとするが、ぼくがアイテムボックスを開いた瞬間、空間内の不安定な魔力粒子は格好の助燃剤となり、一瞬で燃え尽きた。    


渾身のビンタをそいつの面に叩き込む。頸椎が軋む嫌な音が響き、そいつは訓練室の壁まで弾き飛ばされた。    


最後に応答したのはタンク職だ。彼は盾を構え、シールドバッシュの体勢に入る。    


ぼくは右足で強く床を踏み抜いた。    


その直上から、巨大な攻城弩バリスタが応えるように現れる。現形と同時に放たれた巨矢は、タンクの腹部を貫通し、そのまま背後の魔導師の隣へと縫い付けた。 すべては電光石火の間の出来事だった。    ぼくは掴んでいた相手を放り出す。短時間の強制的な注水により、男の眼球には網目状の血走りが浮かび、瞼からは血の涙が滲んでいた。    


喉からは獣のような、掠れた風切り音が漏れ出す。    


それは窒息のせいではない。真水によって強制的に膨張し、引き裂かれた肺の痛みが、まるで煮えたぎる溶岩を吸い込んだかのような激痛を彼に与えているのだ。    


ぼくは男の四肢の上を虚空で指し示した。その動作に合わせ、巨大な鉄のインゴットが次々と落下し、男の四肢を無慈悲に粉砕していく。  


「B級記録員レスト。本日、スールウォート訓練室において、戦士A、魔導師B、前衛Cの肉体に重大な欠損を確認した。よって、君たちに不適格による強制退役を申し渡す。審理結果に不服がある場合は、証明書を提出した上で再申告するように」    


ぼくは仕上げに、アイテムボックスから『退役申請書』を丁寧に取り出し、彼らの傍らにそっと置いた。


    アイナ視点―――  


「…………」    


これが、先輩の戦う姿……?    


今、目の前の先輩は両手でレシーナ様を必死に抑え込んでいる。彼女は「レ、私が守るから!」と叫びながら、まだ名前も決まっていないあの小枝スティックを振り回し、地面に転がっている男たちに追撃を加えようとしていた。  


「あんな物騒なものを人間に叩き込ませないのが、本当の『ぼくの保護』だ! やめなさい!」    


先輩の必死な叫び声。その光景はひどく滑稽だったけれど、さっきまでの光景を思い出すと、私は呼吸を忘れるほどの恐怖を感じていた。    


先輩が記録員守則について尋ねてきた時、私はただ、ルールで相手を怯ませるつもりなのだと思っていた。    


けれど、相手は有名な問題児で、昇格したばかりとはいえ実力派のA級パーティーだ。常識的に考えて、規則や武力で彼らを退かせるのは不可能だと思っていた。だから、私の返答は震えていた。    


けれどその直後、空気は一変した。先輩が暴発するように踏み出した瞬間、放たれた殺気は抜身の刀のように私の肌を刺した。けれどそれは、春の雪が溶けるようにすぐさま霧散した。    


数拍の間に、期待の新人A級パーティーは、文字通り「人為的に退役」させられた。    


戦士が剣を振るって場を荒らすこともなく。    

魔導師が魔法で翻弄することもなく。    

唯一の前衛が仲間を守る暇さえなく、戦闘は終わった。    


魔法ではない。ただアイテムボックス内の貯水を利用し、戦士に水刑すいけいを施した。道具も呪文も使わず、アイテムボックス使用時の魔力燃焼特性を利用し、魔導師の魔力集束を封じ込めた。    


そして最後には、城壁や要塞、あるいは大型魔物を相手にするための巨大な弩床バリスタが、前衛の巨盾ごとすべてを貫いた。    


これが、アイテムボックスを用いた戦闘……。    


魔法を封じられた魔導師のあの絶望的な表情は、同じく魔法を主体とする私にとって、心に刻まれるほどの恐怖だった。先輩は笑って「ただの初見殺しだ」と言った。これを、初見殺しなんて言葉で片付けていいの?    


……こんな戦い方、今まで誰も見たことがないはずだ。

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