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冒険者ギルドの記録員  作者: 六花葵
第一巻
13/21

記録6-3 ギルド長は伝説のエルフ!? 正体がバレた看板娘と、報酬金貨三百枚の「破格」な依頼。

半日が過ぎた後、アイナはどこか心ここにあらずといった様子で御者席に座っていた。どうやら俺の大量買い出しが、彼女を相当驚かせてしまったらしい。これくらいの買い溜め、そんなに珍しいことなのだろうか?


この妙な空気は、冒険者ギルドの最上階、ギルド長の執務室に到着するまで続いた。 この山の頂上には小さな部屋がある程度だと思っていたが、実際は想像と全く違っていた。ギルド長がいる場所には広大な空き地が切り拓かれており、まるで馬車を停めるための専用スペースのようだった。 いわゆる「執務室」もただの部屋ではなく、一棟の城に近い規模の建築物だった。


中に入ると大きなロビーがあった。アイナの説明によれば、ここはギルド長と冒険者が事務仕事を行うパブリック空間で、他のエリアはギルド長のプライベートゾーンらしい。


内装は非常に気品があり、余計な飾りはない。数脚の大きなソファと壁の装飾、そして部屋を囲むように立つ書棚が、落ち着いた雰囲気を醸し出している。部屋の突き当たりには大きなオフィスデスクがあったが、あるじは席を外しているようだった。


「少々お待ちください。先生を呼んで参ります」 アイナは俺たちをソファに座らせると、書棚の裏にある扉へと消えていった。


わざと待たせているのか、それとも本当に用事があるのか、アイナが去ってからかなりの時間が経過した。 俺が何度も欠伸を漏らし、レシーナと一緒に一眠りしようかと考え始めた時、再び後ろで扉が開く音がした。


「お待たせして申し訳ありません」 聞こえてきたのはアイナの声ではなかった。


だが、その声質は非常に柔らかく、これほど心地よい響きを俺は聞いたことがなかった。アイナはその人物の後ろ三歩ほどの距離に立っている。どうやら彼女がギルド長らしい。


「はじめまして、レスト。私はイリスニール。一応、このギルドの長を務めています」 わあお、美人だ。とんでもない美人だ。


尖った長い耳、エメラルドグリーンだが決して浮いていない長い髪、優雅で透明感のある声。世間で言われるエルフの体型の欠点(?)も見当たらず、どこか憂いを帯びたような眼差し。……まずい、俺の心の中に何かが不法侵入してきた気がする。


その時だ! 後ろから衣の裾を力一杯引っ張られた。レシーナが警告するような鋭い視線で俺を見ている。 俺はビクリと身体を震わせた。今しがた俺の心に侵入してきた「何か」は、一瞬にしてレシーナの視線によって追い出された。


「会長、こんにちは……」 俺は上司と話すのが得意ではない。


正確に言えば、上司を友達だと思えれば遠慮なく馬鹿話もできるのだが、俺は上下関係の線を混同しがちなタチだ。だから友好度の足りない上役に対しては、その境界線を厳守することにしている。


イリスニールは椅子に腰を下ろすと、興味深そうな表情で俺を見つめた。


「大体の状況はマリーから聞いているわ。アイナからも報告を受けたけれど。レスト、あなた、自分が冒険者ギルドの『記録員』だってことを本当に理解しているのかしら?」


おいおい、その質問は何だ? まさか適性検査か? 回答を間違えたら失業するのか? 俺はクビになるのか?


「ええ……まあ、概ね理解しているつもりですが」


「ほう? なら、自分がどのタイプの記録員か分かっている?」 俺の心の中で悲鳴が上がった。タイプだと? 記録員って階級ランクがあるだけじゃないのか? タイプなんてあんのかよ!


「えーと……記録員は階級だけではなく、タイプ分けがあるのですか?」


「ええ、一応ね。単純な二分法なら『戦闘型』と『非戦闘型』。そこからさらに専門分野に分かれるけれど、基本的には戦闘か非戦闘かで分類されるわ。全ての記録員の能力が戦闘に向いているわけではないもの」 ちょっと待て! 俺の理性が吹き飛ぶような情報を聞いたぞ。


「ということは……?」


「さっきアイナと話していた内容、来る途中で買い込んだ物品、そしてマリーが私に伝えたあなたの評価。それらを総合すると、レスト、あなたは私が今まで見てきた中で、初めて『道具箱』の能力で前線を跳ね回る記録員のようね」


あーーー!!! 叫びたい。今すぐ叫びたい! そして今すぐマリーと生死を懸けた決闘をしたい。今度こそレシーナの「手出し禁止令」を解いてやる。マリーを殺しはしないまでも、少なくとも再起不能にして引退させてやる。


「ただ正直なところ、あなたの記録には、任務中に冒険者が死亡した例が一度もないそうね」


そんなに珍しいことか? あのレベルの任務なんて、せいぜいゴブリン止まりだ。エコロ村には強力な魔物なんて滅多に出ない。ゲームで言えば雑魚敵相手に、一人や二人を守るなんて造作もないことだ。


「大した記録じゃないと思っているの? 冒険者がD級からC級へ昇格する試験での生存率……いえ、殉職率が二割に達することを知っているかしら?」


はあ? まさか。C級への昇格任務なんて相手はゴブリンだぞ。ゴブリンの身体能力は人間の子供と大差ない。武器を持った大人なら一人で四、五体は相手にできる。たとえ突発的な事態が起きても、記録員が守ってくれるはずだ。まさか!


「ええ、あなたの想像通りよ。D級からC級、あるいはC級からB級の試験ですら、非戦闘型の記録員が担当することがある。彼らの戦闘能力には限界があるわ。だから冒険者の命を救い切ることは、決して容易なことではないの」


「でも、そのための記録員の階級制度ではないのですか?」


イリスニールは溜息をついた。


「その通りよ。でも非戦闘型の記録員は、よほど解決が簡単な状況でない限り、象徴的な助太刀しかしない。彼らにとって、たとえ階級が一つ上だとしても、突発的な場面では自分の身を守るのが精一杯。それ以上を求めるのは酷というものよ」


ああ……分かった。


ネットゲームで例えるなら、冒険者たちが挑んでいるダンジョンが全滅(全ロスト)しかけている時、記録員は緊急参戦してくれる助っ人だ。だがそのダンジョンが難しすぎて、助っ人が加わっても冒険者が何の貢献もできない場合、助っ人はシステム的に退場し、冒険者は自業自得で死ぬしかない、ということか。


「だからあなたのケースは非常に稀なの。普通なら戦闘型の記録員にしか見られない傾向よ。もっとも、B級以上の任務になれば、任務の性質に合わせて記録員が派遣されるようになるけれど」 イリスニールの後ろで、アイナが尊敬の眼差しで俺を見ている。……まさか彼女も非戦闘型なのか?


「それで、俺は今後どのようなタイプの任務に派遣されるのですか?」


「あなたを非戦闘型に分類したいところだけど、アイナの報告を聞く限り、あなた、冒険の一般常識を全然分かっていないようね。それが今日あなたに伝えたい一つ目のことよ」 イリスニールは引き出しから一枚の紋章エンブレムを取り出した。


紙と羽根ペンをモチーフに、剣と矢の形が描かれたデザインだ。


「これは記録員の紋章。これには『絶対真実』の魔法契約がかけられている。記録員が任務で見たことを報告する際、嘘をつけないように保証するためのものよ。同時に身分証としての探知魔法も組み込まれている。これがあれば各大国の都市で身分が保証されるわ」 俺は前に進み出てその紋章を受け取った。


少し魔力を注いでみると、紋章はすぐに黄金色の輝きを放った。


「この光の色に違いはあるんですか?」


イリスニールは微笑んで言った。

「黄金色の光は、その記録員が担当した任務での死亡率の低さを表しているわ。死亡率が半分を超えるようなら、赤黒い色になる。それを持って各地のギルド支部へ行けば、どこでも引く手あまたでしょうね」


つまり、これに血がこびりつくと色が変わるってことか。


「次に、二つ目の話をしましょう」


「はい?」


「あなたの隣にいる、その女の子のことよ」 気のせいか、イリスニールがレシーナを見た瞬間、その瞳に光が宿った。


隣のレシーナがわずかに身を翻し、俺の後ろに隠れた。一瞬だったが、彼女の瞳は縦長の「爬虫類(ドラゴンの瞳)」へと変化し、イリスニールを威嚇するように睨みつけていた。 俺が気づかないうちに、二人の間で視線による火花が散っていた。


イリスニールは突然、指で額を揉み始めた。


「まさか本当に『虚空のヴォイド・ドラゴン』の一族だったなんて。私も長く生きているけれど、実物を見るのは初めてだわ。しかも人間に懐いているなんて……」


ただの龍族だろ、何をそんなに感心してんだよ。ここはファンタジー世界だろ? 自分のこと棚に上げて何を言ってるんだ、このエルフ。龍族がそんなに珍しいわけないだろ。


「レシーナが龍族であることに何か問題が? 確かに珍しい種族かもしれませんが、龍族という範疇カテゴリーからは外れていないでしょう」


「いい、レスト。問題はその『種族』なのよ。虚空の龍が今ではほとんど『本の中だけの存在』だと言われているのを知っている? 書物にはこう記されているわ。『どこにも留まらず、人の前には現れず、念じれば現れ、刹那に消える』。この一族は現れるだけで、ただ呼吸をするだけで記録に残る存在なの。エルフ特有の加護魔法で確定させなければ、あなたのそばに寄り添っている子が虚空の龍だなんて、到底信じられなかったわ」


おいおい、その書物の記述、種族の格調を上げすぎだろ。


その四つのフレーズ、一つもレシーナに当てはまってないぞ。レシーナの方を見ると、何故か納得したような表情でふんぞり返っている。 ああ……この子もいよいよ中二病の年頃か。


「それで、虚空の龍には人間がなりふり構わず奪い合いたくなるような『需要』があるんですか?」


イリスニールは首を振った。

「ならいいじゃないですか。需要がなければ実害もない。会長さんですらエルフの秘法を使わなければ判定できなかったのなら、普通の人間にはバレないはずだ」


「首を振ったのは需要がないという意味じゃないわ。虚空の龍が何をもたらすのか、誰も知らないという意味よ。記録によれば、虚空の龍は地に縛られず、ゆえに境界を持たない。彼女たちはどんな結界も、どんな禁呪も受け付けないと言われている。もっとも、誰も証明できていないけれど」


「それなら尚更いい。少なくともレシーナを拘束できる人間の魔法は存在しないってことだ」


「問題はあなたよ、少年!」 イリスニールが俺を指差した。


「まず、レシーナの容姿はそれだけで大きな問題を引き起こすわ。マリーから聞いたけれど、あなたたちはエコロ村という辺境から来たそうね。あそこなら面倒な奴はいなかったかもしれないけれど、人間界の大都市に入り、貴族に見つかったらどうする? 彼らがレシーナを奪えないと分かった時、ターゲットをあなたに絞ったら?」


その時、レシーナの声が静かに響いた。

「……そいつら、殺す」


俺は彼女の頭を軽く小突いた。

「言っただろ! 俺の許可なく人間の範疇を超える力を使うなって」 レシーナは唇を尖らせて横を向いた。


俺はイリスニールの言葉を引き継いだ。

「うちのレシーナは可愛いですからね。でも、そんなに心配はいりませんよ。俺はこの世界の法律に関しては常識ゼロですが、自然界のルールには詳しいんです。……結局は弱肉強食でしょう?」


イリスニールは深い溜息をついた。

「道具箱の能力しか使えない人間にしては、その物言いは恐ろしいほど傲慢ね。能力の使い方はマリーから聞いたけれど、それもまた……はあ……。マリーがあななたちをエコロ村から連れ出したのが正解だったのかどうか、分からなくなってきたわ」


俺は天井を見上げて目を泳がせた。


これ以上イリスニールに突っ込まれたくない。 先ほどアイナと話した内容から、記録員の身分を持つ俺はこの街の市民……いや、特権階級であることが分かっている。もし他国の貴族と揉めても、暴力以外の解決策はいくらでもあるはずだ。


ややこしくすれば、国同士の貴族間の紛争に仕立て上げることもできる。 爵位で言えば、俺はシルウォートの伯爵相当だ。親王、大公、侯爵の次が俺だ。決して低くない。 でも、そう考えるとB級記録員なんてそれなりの人数がいるはずだ。そんなに貴族がいる王国で大丈夫なのか? まあいい。それは今考えることじゃない。何か起きてから考えよう。


「それじゃあ、最後の話をしましょうか」


「はい?」


「ある依頼についてよ。内容はダンジョン探索。道具箱のスキルを持つ人員を求めているわ。特殊な案件だから、ギルドからの推薦が必要なの。……マリーがあなたを推してきたわよ」


なんだよ! あいつ、あんなすれ違いざまに俺の仕事を見つけてきやがったのか? 暇なのか? だが、染み付いた職業習慣から俺は尋ねた。


「記録員としての参加ですか? それとも冒険者として?」 記録員なら公会の仕事、つまり本職だ。 冒険者としての参加なら話が違う。


俺は傭兵のように相手のパーティーに雇われ、彼らの方針に従うことになる。 自由度で言えば記録員の方が遥かに高い。基本的には付いていって目で見たことを記録するだけでいい。危なくなれば救助するし、無理だと判断すれば即座に撤退できる。安全指数は冒険者よりずっと高い。 冒険者として雇われれば、リーダーの指示に従わなければならない。もしリーダーが無能なら危険極まりないが、その分もらえる報奨金は記録員とは別枠になる。


「それで、あなたはどっちの立場で参加したいの?」


ああ……悩ましい。さっき大金を使ったばかりだから、正直金貨は欲しい。任務中に一儲けできるチャンスがあるかもしれないしな。


「一応伺いますが、道具箱の能力者が指定された理由は何ですか?」


道具箱の重要性は分かっているが、それは決して希少なスキルではない。魔法使いなら誰でも習得できるし、錬金術の道具だってある。生まれつきの能力者と後天的な者の違いは、熟練度と空間の広さくらいのはずだ。


イリスニールは引き出しから一枚の依頼書を取り出し、俺の前に差し出した。


「まだダンジョンの任務を受けたことがないようね。あなたの疑問はもっともだけど、魔法や錬金術の道具箱には弱点があるのよ。容量が小さいこともあるけれど、何よりダンジョンには禁魔地帯マジック・キャンセルが存在するわ。そこでは魔法の道具箱は使えない」


「けれど、天賦の能力としての道具箱ならそのまま使える。つまり、道具箱の能力者を一人連れて行くのは、ダンジョン探索の基本中の基本。けれど、その能力を持っていながら冒険者になる人間は少ないわ。過酷な状況で自分の命を守るためのスキルではないからね」


なるほどな。もし俺にこの無限に近い空間がなければ、俺だってB級記録員になんてなれなかっただろう。


「相手はあなたに戦闘は求めていないわ。唯一の要求は脱落せず、しっかり付いてくること。報酬は金貨三百枚。状況次第では追加の補填も出るわ」


土豪だ! この太い大腿スポンサーにはしがみつくしかない。


金貨が俺に手招きしているのが見えるようだ。


……気がついた時、依頼書は既に俺の手の中にあった。

読みやすくレイアウトを修正してみました! 前よりスムーズに読めるようになっていると嬉しいです。


面白い、続きが気になると思って頂けましたら、下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援して頂けると嬉しいです!

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