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冒険者ギルドの記録員  作者: 六花葵
第一巻
12/21

記録6-2 師匠は世界に五人のS級候補!? 門衛が敬礼し、エルフの美少女に「先輩」と慕われる俺の正体

馬車を駆り、地圖を眺め、レシーナをあやす。

レシーナをあやし、馬車を駆り、地圖を眺める。

地圖を眺め、レシーナをあやし、馬車を駆る。 そんな風にして数日が過ぎた。


つい、ずっと心に秘めていた願望を口にしてしまってからというもの、レシーナは事あるごとに俺に当たり散らすようになった。たとえそんな姿であっても、目の中に入れても痛くないほど可愛いのは確かなのだが。

そうは言っても、最近のレシーナがどうしてしまったのか、俺にはさっぱり分からない。彼女の成長と教育を、マリーは「拾ってきた奴が責任を持つもんでしょ」と言って、丸投げしてきた。 結果として、レシーナは俺とほぼ同じ価値観や物事の考え方を持つようになった。

性別の違いだけで、これほど思考に差異が出るものなのだろうか。 思春期、か……。

俺の思春期なんて前世の話だし、その頃の女の子にどう接していたかなんて知るはずもない。というか、そもそも接点すらまともになかった気がする!!! あの光景は全く想像もつかない。

それに、龍族にもそんな時期があるのだろうか? 人間が遭遇する「龍族による災害」なんてのも、もしかしたら単なる龍族の生理的な不調によるものだったりして。

まあいい! こういう時のための至言がある。「何を間違えたにせよ、まずは土下座して謝れ」だ。


自由都市に到着する予定の前夜。

夕食後、あまり機嫌のよろしくないレシーナを見つめ、俺は両手を合わせて頭を下げた。

「ごめん、レシーナ。もう怒らないでくれ、俺が悪かった」

「ん……」

「もう二度としないから!」

「ん……」

「許してくれ、頼む」

「ん……」

ふむ……。正面からの返答はないが、三度の返事のトーンと表情から推測するに、彼女には俺を許そうという傾向が見て取れる。 くそっ! 本来ならレシーナを気品溢れる高貴なお嬢様方向に教育するつもりだったのに、どうして無口なクーデレ属性の道を歩んでしまったんだ。

最後にレシーナは俺の衣の裾を掴み、顔を背けながらぼそりと呟いた。 「次、次は本当に許さないんだからね」 うおぉ! レシーナ、お前はどうしてそんなに可愛いんだ。溶けてしまいそうだ。


自由都市「シルウォート」は約七百年の歴史を持つ都市だ。

同時に、この大陸でも数少ない中立王国の一つでもある。

山々に囲まれた盆地に位置し、空から見下ろせば、円を描くように山が都市を包み込んでいる。盆地の中心には高くそびえ立つ城があるが、都市計画としては十字の主要道路が目立つ程度で、道路以外は全て樹林に覆われている。 入り口は二つ。

一つは海路で船に乗り、都市の運河から入るルート。 もう一つは、連峰の唯一の切れ目から入るルートだ。 かつてこの一帯はオーク(食人巨魔)の部族の集落だったが、自由都市の創始者によって掃討され、今の都市の起源となったらしい。


自由都市が成立する前も、冒険者ギルドに似た組織は存在していたが、基本的には各国が独自に管理しており、規約もバラバラだった。明確な冒険者制度が確立されたのは、この都市ができてからのことだ。 そう考えると……せいぜいこの七百年の間の出来事なのだな。

自由都市は冒険者の聖地であり、冒険者ランクの核実を行う重要な拠点でもある。 B級以下の昇格試験は、記録員が随行して評価を下すだけでいい。

だがA級ともなると、特定の大きな都市に行かなければA級審査資格を持つ記録員がいない。

そしてS級を目指すなら、ここシルウォートに来るしかない。

ここでしか審査資格が得られないと言われているからだ。 しかし、待てよ。記録員の条件は「冒険者より一階級上の実力」が必要じゃなかったか? だとしたら、S級の記録員ってのは、一体どんな化け物じみた能力を持っているんだ。


「人が多いな……」

目の前には長い人の列が、自由都市への入城を待っている。

一目で冒険者と分かる連中ばかりで、その多種多様な装備には目を見張るものがある。

彼らの装備の使い道を勝手に評価して時間を潰していると、すぐに俺の番が回ってきた。

「冒険者か? それとも平民か?」

関所の守衛がルーチンワーク通りに質問を投げかけてくる。

「普通は『どこから来た』とか『目的は何か』とか聞かないのか?」

「ここに来るのは冒険者か、ここで稼ぎたい平民だけだ。目的? 他人の生命や財産を脅かさない限り、この都市は何をしようが干渉しないさ」

わあお。一瞬、犯罪の都かと思ったぞ。

「喧嘩や騒ぎを起こしてもか?」 守衛はハハハと笑った。

「冒険者が喧嘩しねえわけねえだろ? さっき並んでる間にも、あちこちで起きてただろうが」

いや、俺が聞きたかったのはそういうことじゃない。

「あんたが聞きたいことは分かる。自由都市の法律ってのは、つまりギルドのルールなんだ。さっきの『生命財産を侵さない』って法律は平民のためのもんで、冒険者同士の揉め事は冒険者の掟で解決する。そんなことを聞くってことは、あんた初めてここに来た平民だな?」

「ええ……初めてなのは確かだし、身分が平民なのも合ってるけど。ただ、職業は……冒険者ギルドの記録員なんです」


俺の答えを聞いた途端、守衛は驚愕の表情を浮かべた。

「あんた、ギルドの記録員だって? なら証明書を提示してくれ」

ん? 守衛の態度が急激に軟化したぞ。記録員に何か問題でもあるのか?

「証明書? そんなの持ってないですよ」 マリーの奴、記録員に証明書が必要だなんて一度も言わなかったぞ。

「……では、どなたに師事されているか伺っても?」

おい、記録員ってそんなに偉いのか? お前、さりげなく敬語になってるぞ。

「ああ、マリーですよ。彼女、俺より一足先にここに来ているはずなんです」 瞬間、守衛は直立不動の姿勢をとり、三歩下がって敬礼しながら深く頭を下げた。

「すぐに手続きの者を呼びます!」

おい、どうした? 誰か何が起きたか教えてくれ。

周囲の衛兵たちもヒソヒソと囁き合っている。「彼女の弟子だってよ」「マジかよ」なんて言いながら、俺のことをしげしげと眺めている。


しばらくすると、茶色の三つ編みにした少女が、胸に本を抱えて慌ただしく駆け寄ってきた。

「あ、あの! レスト先輩でしょうか?」

「ああ、レストだ。君は?」 目の前の少女を観察する。

男子なら誰もが夢に見そうな美貌の持ち主だが……。 その耳!!! まさか、これが伝説のエルフ(精霊族)か?

「あ、失礼しました。自己紹介が遅れました、アイナと申します。同じく記録員で、私の師匠から先輩方を迎えに行くように言われて参りました」

「ここで言う『先輩』ってのは、記録員としての立場のことか?」

「はい。先輩はすでにB級の記録員だと伺っております。私はまだC級ですので、当然、先輩とお呼びすべきかと」

「なんだか面倒な階級制度だな。冒険者たちの階級も、そんなに明確に区別されてるのか?」

「記録員という立場は、冒険者以上に厳格な区分が必要なのです。この自由都市において、記録員の身分は一般的な王国の貴族に相当しますから」

「はあ? 貴族?」

その設定を聞いて、思わず大声を上げてしまった。

この世界に来てすぐにこの業界に入ったし、小さな村にいた頃は、記録員なんてちょっとした仕事程度にしか思っていなかった。外の世界に出て、ようやく記録員が特殊な職業であることを知った。

「じゃあ、爵位はランクによって決まるのか?」

「ええ、基本的にはその通りです」

「マリーの奴が以前教えてくれた常識だと、A級の記録員ってのは……。だとすると、マリーはこの街でやりたい放題(呼風喚雨)なんじゃないか?」

「レスト先輩、それはマリー様のことでしょうか?」

「君の言うマリーと、俺の知ってるあいつが同一人物なら、その通りだ。本部に急用があるとか言って、俺より先に来てるはずなんだが」 俺は隣の座席を叩いた。

「乗りなよ。君が馬車を走らせてくれ。移動しながら話そう」


アイナが言われるままに乗車すると、レシーナが唐突に俺と彼女の間に割り込み、俺の腕にしがみついてきた。 昔ならレシーナを膝の上に抱き上げたところだが、今そんなことをすれば、血眼になった男たちが決闘を挑んでくるに違いない。

「ところで、アイナ。マリーがどんな任務で戻ってきたか知ってるか?」

「私の師匠の話では、マリー様は今回、S級記録員の昇格試験(考核任務)を受けるそうです」

ん? S級? 聞き間違いじゃないよな? ということは、彼女の冒険者ランクもさらに一段階上ってことか?

「……なんだか頭が痛くなってきた。冒険者の実力の区分がよく分からなくなってきたよ。常識をアップデートする必要がありそうだ。説明してくれるか? 冒険者ランクの上限はS級じゃなかったのか?」 「先輩の認識は間違っていません。ですが、A級の記録員ではS級の冒険者を管理しきれないのです。そのルールを維持するために、ギルドはS級の記録員を輩出する必要があります」

「となるとギルドの理屈じゃ、S級記録員はSS級の冒険者並みの能力を持ってるってことか?」 アイナは俺の推測に首を振った。

「冒険者の言葉を借りるなら、S級以上は『称号持ち(ネームド)』と呼ばれます。そんな存在は極めて稀で、今や十数名しかいません。S級冒険者も決して多くはありませんが、一、二百名はいます。対して、S級記録員は五名にも満たないのです。もしマリー様が合格すれば、五人目のS級記録員となります」


聞いた限り、人類のハイエンド戦力はそれなりにいるようだが、この世界の人口母数が分からない。一千万の中の数百名と、一億の中の数百名では、S級の希少価値が全く違う。

まあいい、複雑なことを考えるのはやめよう。そんな雲の上の存在、俺のようなB級記録員が関わることじゃない。実力からして、俺はA級で打ち止めだろうしな。それも昇格試験の内容次第だ。戦闘系だったら……俺はもう卒業リタイアだな。


その後、アイナから記録員としての常識を次々と叩き込まれた。基本的なことばかりだが、マリーは一切教えてくれなかった。俺の職業訓練を「放任主義」で済ませ、戦闘能力が基準に達しているかしか気にしなかった彼女は、最低限の常識しか授けてくれなかったのだ。 覚えなければならないことが多すぎて、アイナの話を聞きながら、俺はノートにひたすら書き留めた。


「着きました! ここがギルド本部です」 アイナの視線の先を見ると、そこには山そのものと見紛う巨大な城塞があった。 左右を見渡しても、どこが境界なのか分からない。

「これ……山だよな」

「その通りです。確かに山です。内部はもともとオークの巣窟でしたが、師匠たちが討伐した後、七百年にわたって魔法で改修し続け、今の姿になりました。実際には山体をくり抜いた構造になっています」 目の前の半人工的な建築物を見て、魔法の万能さに改めて感銘を受けた。


馬車が正門から入ると、城内の空間は馬車二台が並んで通れるほど広大だった。

城の内部は四通八達しており、アイナによれば、オークたちが残した通路もあれば、後に切り開かれたものもあるという。ギルド本部の内部そのものが、自由都市の本体「シルウォート城」なのだ。 ここには冒険者が必要とするあらゆる装備品、酒場、宿、さらには風俗街までもが軒を連ねている。 ここにいる冒険者以外の平民は、ほぼ全員が商人だ。歪な発展を遂げた街である。

「ここの商人の多くは、十分に稼ぐと故郷へ帰っていきます。シルウォートに残るのは少数ですが、残ったとしても城内には住めず、城の外で自力でなんとかしなければなりません」

シルウォートにとって、この大山のような城こそが本体。城門を潜ればそこは「国境」であり、山々に囲まれたこの地形全てが自由都市の領土なのだ。平民が生き延びたければ、自力でこの地に町を築くしかない。


「大したもんだな……」 偉大な都市に感嘆する。魔法の世界でなければ成し得ない偉業だろう。

馬車がゆっくりと進むが、緩やかな勾配を感じる。

地球の山道と同じく、九十九折ヘアピンカーブを描くように登っていく。

「頂上まで一気にいく方法はないのか?」 アイナは苦笑いを浮かべた。

「師匠は飛行魔法が使えますから、いつも外から出入りしています。普通の冒険者はこの道を辿るしかありません」

ああああ、そんな便利な魔法、俺も欲しい。だが能力の都合上、魔力の使用には大きな制限がある。 「仕方ないな。アイナ、ここについて色々教えてくれないか?」

「お任せください。先輩、何についてお聞きになりたいですか?」

「何でもいい。ただ、俺もこの子も美味いものが好きだから、美食や特産品の情報があれば嬉しいな」 「そうですね……お好みが分かりませんが、ここにはドワーフの酒場、エルフのレストラン、獣人の市場があります。ここは冒険者の中枢ですから、あらゆる種族の冒険者が集まり、種族ごとにコミュニティを作っています。特別なものと言えば……やはり世界で最も揃っている冒険者道具でしょうか」


突然、レシーナが俺の服を引いた。

「レ、補給」

そうだ。弾薬を補充しなければならない。

エコロ村で生産された矢の半分以上は俺が消費してしまった。せっかく冒険者の兵器庫に来たのだ。生活費以外を全て使い果たす勢いで買い込むとしよう。

「アイナ、ここで一番品質のいいクロスボウを扱ってる店を知ってるか? それと安価な長槍や矛の類、小刀、投げナイフ、手裏剣みたいな投擲武器も必要だ。あ! それと、城門破壊用のバリスタ(大型弩砲)は売ってるか?」 アイナは困惑した表情で俺を見た。

「先輩がおっしゃったものなら、心当たりの店はいくつもありますが……バリスタ? 先輩、それを何に使うおつもりですか?」

「……護身用だ」

想像がつかなかったのだろう。アイナは一瞬絶句し、呆然とした様子で馬車を走らせ、彼女の知る店へと向かった。


最初に訪れたのは、アイナ推薦の弩弓店だ

。店主は人間だった。エルフは射術に長けているが、使うのは長弓だ。一般的に強力な弩は人間が好む武器である。 入店するなり、店主は相手がアイナだと分かると、最大限の熱意で迎え入れた。

今月入荷した優れものや稀少な素材について、熱心に説明し始める。俺とレシーナは完全に蚊帳の外だ。

店内の弩や長弓はどれも良さそうだ。無骨な外見からして、かなり「給力(神ってる)」レベルの威力がありそうだ。 だが俺に必要なのは武器ではなく、弾薬だ。

「お客様、どのような武器をお探しで? 私が紹介しましょうか?」

「いや、いいんだ。矢だけあればいい。この店にはどれくらい在庫がある?」

「矢でしたら、普通の鉄矢、破魔用のミスリル矢、威力を高めた重矢がございますが、どれをご入用で?」 流石はギルドの本拠地だ。以前は入手困難だった破魔矢が、そこら辺の店で普通に売っている。 「なら、普通の矢を三千本、破魔矢を五百本、重矢も千本くれ」

概算で見積もり、俺の理想の数値を告げたが、店主は困り顔になった。

「お客様……当店の在庫では、とてもその要求にはお応えできません」

普通の冒険者パーティの弓使いなら、矢筒一つに三十から四十本程度。破魔矢を十本も持ち歩くのは稀だし、全鉄製の重矢なんて特殊な状況でしか使わない。 俺の要求は、少なくとも十数個のパーティ分に相当するのだ。

結局、店主は店にある全在庫を掃き出すことになった。

それでも俺の考える「安全在庫」には届かず、俺はアイナに別の武器店も紹介してもらうことにした。

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