第一話 無能剣士の一振り
――剣士として、俺には才能がない。
それが、この街での共通認識だった。
冒険者ギルドの掲示板に張り出される依頼の中で、俺の名前が指名されることはまずない。
危険度の低い雑用、倉庫整理、護衛の補欠。
剣を持っているというだけで冒険者を名乗ってはいるが、実際のところ、戦力として数えられたことは一度もなかった。
「またお前か。……まあ、今回は数合わせだ。前に出るなよ」
そう言われるたび、俺は「分かっています」と答える。
反論する理由も、自信もなかった。
実際、俺の剣は重くも速くもない。
魔力もほとんど扱えず、特別な技もない。
努力はしてきたつもりだが、結果が伴わない以上、それは才能不足なのだろう。
だから俺は、自分の立場を受け入れていた。
剣士として前に立つことはない。
仲間の邪魔をせず、言われた通りに動く。
それが生き残るための最善だと、そう思っていた。
その日も、いつも通りの依頼だった。
古い遺跡跡の調査。
討伐対象がいる可能性は低いが、念のため剣士を含めた少人数で向かう――そんな内容だ。
俺は、最後尾を歩いていた。
先頭の斥候が立ち止まり、次の瞬間、空気が変わった。
「……来るぞ」
低く短い声。
直後、地面が軋み、何かが這い出てくる。
黒い外殻。
刃を弾く硬度を持つ魔獣。
討伐記録なし、生存報告なし。
――伝説級。
誰かが、そう呟いた気がした。
前衛が構え、魔法使いが詠唱を始める。
だが、魔獣は一歩で距離を詰め、盾ごと前衛を弾き飛ばした。
詠唱は中断され、隊列が崩れる。
「くそっ……!」
混乱の中、魔獣がこちらを向いた。
逃げ遅れた俺と、倒れた仲間の位置が、一直線に重なる。
考える時間はなかった。
俺は、剣を握り直した。
いつも通りだ。
特別な構えも、技もない。
ただ、仲間に当たらないように、自然に剣を振る。
――最初の一振り。
硬い手応えは、なかった。
抵抗がない。
まるで、空気を斬ったような感触。
次の瞬間、魔獣の動きが止まった。
静かに、音もなく、黒い外殻がずれていく。
縦に、一直線に。
遅れて、地面に崩れ落ちる音がした。
……斬れた?
自分でも信じられず、剣を見る。
刃こぼれはない。
手応えもない。
周囲が、沈黙していた。
誰も声を出さない。
魔獣の死体と、俺と、剣だけがそこにある。
「……今の、誰がやった?」
かすれた声で、誰かが言った。
俺は、正直に答えた。
「……俺、です」
空気が、凍りついた。
疑いの視線。
信じられないという表情。
誰もが、何か言いかけて、言葉を失っている。
俺自身も、分からなかった。
なぜ斬れたのか。
どうして今の一振りだったのか。
ただ、いつも通り振っただけだ。
それなのに――。
その場で、誰一人として答えを出せる者はいなかった。
だが一つだけ、確かなことがあった。
この一振りが、
この日が、
俺の知らない何かを、確実に変えてしまったということだけは。




