第91話:村越 大河
停学処分になってから、数日が過ぎた。
昼間の校舎に入れない生活は、想像以上に長く、重たい。
理由は分かっている。あの日、あの場で、オレはついカッとなって一之石の胸ぐらを掴んだ。
いや——正確には、あれは「ビラを破られて泣き出した柏木を庇った」つもりだった。
だが時間が経つにつれ、分かってきた。
あの瞬間の一之石は、あくまで柏木の暴走を止めるために、一番効率的で確実な方法を選んでいたのだと。
それを察することができず、感情のままに手を出した自分が愚かだった。
だからこそ、この停学は自業自得だと受け入れるしかない。
そんな鬱屈した午前、スマートフォンに着信のサインが出ている。
チャットサービスの画面に、突然、音声波形とリアルタイムの文字起こしが流れ出す。
《……久しぶりだね、一之石くん》
落ち着いた男の声。
続けて、聞き慣れた低い声が返ってくる——一之石だ。
慌てて画面左上のアカウント名を確認し、息を呑む。
黒川先生。
これは、あの「特別公聴会」の会場から流している音声だ。
なぜこんなことを——理由は分からない。
だが考えるより先に、オレはスマホを手に取っていた。
《今、黒川先生のアカウントから配信されてる。一之石の会議だ》
停学中のグループチャットに送ると、既読が一気に増えていく。
「マジ?」「私も見てみる」と返信が立て続けに届く。
波多野にも個別で送った。
《今、聴ける。黒川先生が流してる》
既読だけがつき、返事はない。きっともう聴き始めている。
Bluetoothのヘッドフォンをスマホにリンクさせて、机に座り直す。
会議室のざわめき、紙をめくる音までクリアに聞こえてくる。
《駅伝大会で急遽出場して、急増の連合チームを勝利に導いた話も聞いているよ。その際には仲間と力を合わせたはずだと思う。それは素晴らしいと思って君の成長を楽しみにしていたのだが、その大会の後からまた内省的になっているとも聞いた。何で君が苦しんでいるのかを、私たちは知りたい》
春海という偉い感じのおっさんの問いかけに、長い沈黙が落ちる。
このあと、何を言うのか。
オレは息を殺し、流れてくる一之石の声を待った。




