第85話:白石 紗月
駅前ロータリーの空気は、冬の冷たさと、それ以上の緊張感で張り詰めていた。
私は結奈と並んで、少し離れた位置からその光景を見ていた。
——ビラを破る孝和くん。
そして、涙をこぼす美羽ちゃん。
孝和くんの胸ぐらを掴む村越くん。
きっと、この場にいる誰もが孝和くんを「ひどい」と思っただろう。
でも私は、そうは思わなかった。
孝和くんはいつも冷静で、一番効果的に目的を達成するための方法を選ぶ人だ。
その場しのぎや感情任せの行動はしない。
今だって、ビラを破って、きつい言葉で美羽ちゃんを泣かせるのが目的じゃない。
——これ以上、彼女たちが動いて問題を大きくしないように、止めるため。
それは、中学時代に私をイジメから救ってくれたときと同じだった。
あの時も孝和くんは、必要な言葉と行動だけを選んで、迷わず実行した。
その結果、私を守ってくれた。
だけど……このやり方では、きっと美羽ちゃんにも村越くんにも伝わらない。
誤解され、嫌われるかもしれない。
そう分かっていても、孝和くんは迷わなかった。
そのことに、胸が締め付けられるような哀しみを覚えた。
横を見ると、結奈も同じ表情をしていた。
何も言わないけれど、その瞳の奥に、私と同じ感情が揺れているのが分かる。
——孝和くんのやり方は、間違っていない。
でも、この場では誰にも届かない。
私たちだけが、それを分かってしまう。
それにも関わらず私たちが今、孝和くんに対して出来る事が何も無いのだ。




