第84話:村越 大河
駅前ロータリーの冷たい風の中で、オレは柏木の隣に立っていた。
手には栞ちゃんの復学を訴えるビラ。
正直、こんな形で注目を集めることには抵抗があった。
でも——栞ちゃんの気持ちは本物だ。それを無視するのも違うと思っていた。
「村越くん、もっと積極的に!」
柏木が笑顔で通行人にビラを差し出す。
その笑顔には迷いがない。
オレはため息をつきつつ、一枚を手渡そうとした、その時——
「おい!」
低く通る声が背後から響いた。
黒川先生だ。大股でこちらに歩いてくる。その後ろには大河原がいて、視線を逸らしている。あいつ本当に腹黒なヤツだな。
「全員、やめろ。学校にクレームが入ってる。今すぐ引き揚げだ」
「でも……!」柏木が反論しかけるが、先生は手を挙げて制す。
「“でも”じゃない。こういうのはやり方を間違えたら逆効果なんだ」
オレも間に入り、「柏木、今日はもうあきらめ——」と言いかけた瞬間、
別の声が割り込んだ。
「——こういうのを全くの無駄って言うんだ。それが分からないヤツを、バカって言うんだよ」
振り向けば孝和が立っていた。
無表情。声にも起伏がない。
そしてオレたちの手からビラを数枚、乱暴ではなく、冷ややかに奪い取ると——その場で真っ二つに破いた。
破れた紙が風に舞い、足元に散らばる。
柏木の手が止まり、瞳が大きく揺れる。
「……なんで、そんな言い方するの」
かすれた声。次の瞬間、柏木の頬を涙が伝った。
——その瞬間、頭に血が上った。
冷静さなんて一瞬で吹き飛んだ。
「お前……ちょっと言い過ぎだぞ」
気づけば、オレは孝和の胸ぐらを掴んでいた。
周囲の視線も、黒川先生の声も、何も入ってこない。
孝和は眉ひとつ動かさず、オレを見返していた。
その目の奥に何があるのか——考える余裕なんて、もうなかった。




