第79話:村越 大河
昼休み、購買の前でカレーパンをかじっていると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。
柏木だ。それも、大河原に加えて、藤堂と森川まで連れて歩いている。
三人とも、教室の端でひそひそ話をしてから、美術室へと消えていった。
——あれは怪しい。
放課後、廊下を通りかかったとき、美術室の中がちらりと見えた。
机に広げられているのはA4サイズの紙と色ペン。
「賛同署名お願いします」「栞ちゃんを学校へ」なんて文字が視界の端に飛び込んできた。
どう見てもビラだ。しかも、駅前ロータリーで配るつもりらしい。
正直、この件を孝和に告げるのは躊躇われた。波多野や白石にも言い難いな。
あいつらの顔が更に曇る未来しか見えない。
でも、このまま放置したら柏木が突っ走って、もっと面倒なことになるのは目に見えている。
結局、オレは黒川先生を捕まえて事情を話した。
先生は腕を組み、眉をひそめる。
「……やれやれ。柏木のことだから、悪気はないんだろうけどな。余計な波風立てるのが一番早い子だ」
そのまま黒川先生は美術室へ直行し、ドアを開け放った。
「柏木、ちょっと来い」
低くて通る声に、柏木は一瞬だけ肩を跳ねさせたが、すぐに笑顔を作って立ち上がる。
廊下でのやり取りは遠目にも分かる。
黒川先生は淡々と、「こういう活動は大人の間での調整が必要だ」「個人で勝手に動くな」と説いた。
柏木は「はい、分かりました」と素直そうに頷く。
——けどな。
その横顔を見て、オレは確信した。
あれは従う顔じゃない。
あれは「とりあえず聞きましたよ」っていう、形だけの返事だ。
つまり、柏木は全くやめる気がない。
オレはため息を飲み込み、ポケットの中でカレーパンの袋を握りつぶした。
こうなっては孝和に言わない訳にもいかないだろう。でもオレだって栞ちゃんの復学を応援したい気持ちはあるんだけどな。




