第71話:村越 大河
冬休み明け早々、同好会にちょっとしたニュースが飛び込んできた。
一之石が数学オリンピック本選で最高得点を取ったらしい。しかも本選時点での世界最高スコアだという。
正直、数字の意味まではよく分からないけれど、そんなのは関係ない。あいつがやった、それだけで十分だ。
柏木なんかは「これをきっかけに、もっとみんなでお祝いしようよ!」と、いつもの笑顔で提案してきた。
その柏木が言い出したのが、またフリースクールを訪ねるという計画だった。前回は波多野が生徒会の仕事で来られなかったが、今回は全員で行こう、というわけだ。
もちろん一之石も含めて、だ。
三階まで階段を上がると、前回と同じく、奥の方から鉛筆の音や子供たちの声が聞こえてくる。
ドアを開けると、安藤さんが迎えてくれた。今日は前より少し笑顔が硬いような気がしたが、気のせいかもしれない。
「ようこそ、また来てくれて嬉しいよ」
そう言いつつも、一之石と安藤さんの視線が一瞬だけ交差し、すぐに逸れた。別に言葉を交わすわけでもないが、その間に何かが流れたような気がして、オレは少し首を傾げる。
栞ちゃんが机から顔を上げ、柏木に笑顔を向けた。隣には大智っていう背の高い小学生の男の子もいて、こちらにも軽く会釈してくる。
波多野が穏やかに挨拶を交わす横で、一之石は淡々と栞ちゃんに「数学をやっているか?」とだけ声をかけた。
栞ちゃんは嬉しそうに頷いたが、その瞳の奥にある複雑な色は、オレにはまだ読み切れない。
この訪問のきっかけはお祝いのはずだったのに、どこか空気は静かだった。
まあ、こういう日もあるさ――と、自分に言い聞かせながら、オレは安藤さんの動きと、一之石の表情を、何となく横目で追い続けていた。




