表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/178

第66話:波多野 結奈

 放課後の生徒会室で、紗月が静かに話を切り出した。

 机の上の書類に視線を落としたまま、「……昨日、柏木さんに連れられてフリースクールに行ったの」と。


 最初は何気ない報告のつもりで聞いていた。けれど、次の言葉で息が詰まる。

「そこに……孝和くんと私が、昔から知っている人がいた」

 紗月の声音は抑えていたが、言葉の端々に固さがあった。


 安藤先生――名前を聞くだけで胸がざわつく。

 私は隣のクラスだったからそれほどよく知らない。それでも、あの時の出来事に深く関わった人物だというのは知っている。

 紗月は全てを説明しなかった。けれど、その場にコウくんがいて、栞ちゃんという美羽さんに似た子と会ったこと、そして彼の表情がいつも以上に硬かったことは、しっかりと伝わってきた。


 つまり栞ちゃんは美桜ちゃんと似ているということだ…。


 机の端を、指先で強く押さえる。

 想像するだけで胸の奥がざわめく。

 駅伝大会の時から感じていた、彼の中の変化。笑わない。喜ばない。

 それが、昨日の出来事でさらに深く沈んでしまったのではないか――そう思うと、やりきれなかった。


 あと数日で数学オリンピックの本選だ。

 彼がどれほどその舞台に向けて準備を積み重ねてきたか、私は知っている。

 これ以上、何かを背負わせたくない。

 それは彼を守るためでもあるし、何より、彼が自分の力を存分に発揮できるようにしてあげたいからだ。


「……ありがとう、話してくれて」

 そう紗月に告げながらも、声はわずかに震えていた。


 心の中で、そっと祈る。

 どうか、コウくんに、これ以上の重荷が降りかかりませんように。

 そして、本選の日、あの人が自分らしく数学に集中できますように――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ