第62話:安藤 剛
ドアが開き、見慣れない数人が入ってきた。
その中で、先頭の女の子――柏木と名乗った子が笑顔で挨拶してくる。
ああ、新しく見学に来る高校生か、くらいに思った。
――最初は、そうだった。
だが次の瞬間、視線が合った。
自然に整った髪型の長身の男子。眼差しは冷静に見えて、奥底に冷たい水を張ったような色をしている。
……間違いない。一之石孝和。
さらにその隣、少し視線を落とした女子。
白石紗月。
心臓が一拍、強く鳴った。
喉の奥にひやりとした塊が落ちる。
まさか、こんな形で再会するとは思わなかった。
笑顔を保とうとするが、頬の筋肉が少し引きつっているのが自分でもわかる。
互いに名前を口にすることもなく、ほんの一瞬の沈黙が間に落ちた。
私が視線を泳がせたのも、一之石がわずかに目を逸らしたのも、同じ理由だ。
「今日は特別ゲストを紹介するよ」
自分でそう言っておきながら、声がわずかに上ずっているのを感じた。
机の陰から、栞が顔を出す。
この子は、今の私が守らなければならない存在だ。
……そして、何となく、あの美桜に似ていることにも気づく。
「栞はね、学校でちょっと嫌なことがあって、今はこっちに通ってるんだ」
そう説明した瞬間、一之石と紗月の表情が、わずかに固くなる。
その変化を見て、胸の奥で何かがざらりと動いた。
――やっぱり、この子たちの中で、あの日のことは終わっていない。
柏木さんが一之石の数学オリンピックの話を持ち出し、空気が少し和らぐ。
だが私は、そのやりとりを横目で見ながら、心の中で息を詰めていた。
この再会が、何を呼び起こすのか。
今はまだ、その答えは私には分からない。




