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第55話:黒川 千尋

 玄関前で腕を組んで待っていた。

 冬の空気は容赦がなくて、息を吐くたびに白く濁る。指先はかじかむが、ポケットに突っ込む気にはならない。そういう格好は、どうにも締まりがないからだ。


 自動ドアが開き、人の波の中から一之石が出てきた。

 背筋は伸びてるが、目が笑ってない。予選の緊張が解けたせいだけじゃないな――駅伝のあとからずっと、こいつはこんな顔だ。


「おう、おつかれさん」

 声をかけると、こいつは相変わらずの無表情で、軽く会釈だけ返してきた。


「どうだった、手応えは?」

「……悪くはなかった」

 短かっ。しかも声に力がない。


 ……やっぱりな。

 何か抱えてる。しかも相当重いもんだ。だが、今の段階で無理やり聞き出したところで、こいつは絶対に口を割らんだろうな。


「ま、終わったもんは終わった。腹減ってんだろ。駅前のラーメン屋で温かいもんでも食って行こうぜ。奢るよ〜先生が」

「……はい」


 ちょっとだけ表情が緩んだのを見逃さなかった。

 いいんだ、それで。今はそれで十分だ。


 こっちは正しい方法なんざ分かっちゃいない。ただ、苦しそうなやつの横に立って、少しでも荷を軽くするのが私の役目だ。

 そう自分に言い聞かせて、一之石と並んで歩き出した。

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