第48話:白石 紗月
初詣の参道は、雪の名残を光らせながら、人で賑わっていた。
吐く息が白くほどけ、マフラーの中まで冷気が入り込んでくる。
村越くんが先頭、その後ろに結奈と私、少し離れて柏木さんと孝和くん。
この並びで歩くのは、意外と初めてかもしれない。
「おみくじ引いたら絶対写真撮るからな」
村越くんが声を弾ませる。結奈が笑って返し、柏木さんも「じゃあ私も!」と元気に乗ってくる。
――駅伝の時みたいに、全員で何かを共有している感じ。
柏木さんが孝和くんに話しかける。
少し身を寄せて、笑顔で何かを言っているのが見える。
その距離感が、胸の奥で小さな棘みたいに引っかかった。
もう、美桜に似ていることへのわだかまりはない。
けれど、ああやって近づかれるのは――やっぱり面白くない。
でも、私にそれを止める権利なんてない。
あの日、ゴールで駆け寄った時、私も胸がいっぱいだった。
けれど孝和くんは、あの時も喜びを表に出さなかった。
今日もそうだ。初詣に来てくれたのは嬉しいのに、相変わらず硬い顔のまま歩いている。
境内に入ると、鈴の音と人のざわめきが冬の空気を少し柔らかくした。
私は賽銭を投げながら、横目で彼の背中を見る。
――孝和くん、あなたは何を願ってるの?
いや、違う。
彼は本当に何も願っていない。
「神頼みなんかしない」と言った時のあの響きは、冗談じゃなく、信念そのものだった。
帰り道、村越くんと結奈ちゃん、柏木さんが大吉だの小吉だのとはしゃいでいる間も、
彼は少し離れて歩き、ポケットに手を突っ込んだまま、表情を変えなかった。
笑っていない。
駅伝のあの瞬間ですら笑わなかった人が、今も同じ顔をしている。
――何が彼をこんなに固くしているんだろう。
胸の奥に、小さな氷の欠片が落ちたような感覚が、消えずに残った。




