第3話:波多野 結奈
会議室に集まった「一人部活」の面々を見渡しながら、私は内心で深く息を吐いた。
この人たちに恨まれることになるだろう――そう分かっていても、やらなければならない。
生徒会長として掲げた「集中と選択」は、ただのスローガンじゃない。進学実績でも部活動実績でも、学校全体が低調になっている今、このままでは「堕ちた古豪」という呼び名が定着する。外から目に見える数字や成果を上げなければ、立て直しのきっかけすら掴めない。
そのためには、限られた予算と人材を、勝てるところ、伸びるところに集めるしかない。
もちろん、頭では分かっていても感情がついてこない人は多い。特に文化系はそうだ。活動実績の少ない部でも、そこに居場所を見つけている人がいる。切り捨ては容易ではない。だからこそ、いきなり廃部ではなく「文化系管理団体」として「同好会」扱いで統合し、その代わり期限を区切った。ここで活動実績を出せれば残れるし、出せなければ自然に整理される。
私は一人ひとりの顔を順に見た。ロボット研究部の男子は肩をすくめ、文芸部の女子は目を合わせようとしない。アニメラノベ研究部の村越くんは、妙に面白そうな顔をしていた。
そして、数学部の――一之石孝和。
彼とは別のクラス。学校内で直接会話はなかなか出来ない。させてもらえない。
あの日以来、彼は私との距離をきっちりと保っている。私も、その距離を無理に縮めようとはしなかった。けれど、目の端に映る彼は、変わらないようでいて、少しずつ変わっている気がする。
四月の始業式。文科省の特別施策で派遣された黒川先生が、全校生徒の前で彼の名前を呼んだとき、胸の奥がざわついた。
「特別な生徒」という言葉は、称賛であると同時に、孤立を生む烙印でもある。あの日以来、彼はさらに遠くへ行ってしまったように見えた。
私は、生徒会長としての自分と、幼馴染としての自分を切り離して、この場に立っている。
だが、冷静に見ても、彼の持つ才能は群を抜いている。学校にとっても、大きな財産だ。もしもこの統合によって彼が動くなら――それはこの改革の、思わぬ副産物になるかもしれない。
私は生徒会を運営してく責任がある。だからこの暫定的な「同好会」の事務局として紗月に助けてもらう事にしている。それが紗月にとっても彼にとっても好ましい事ではないとしても、それ以外に手立てはない。
「それでは、方針は以上です。質問があれば」
静まり返った空気の中、誰も手を挙げない。
私は淡々と会議を締めくくった。心の奥に小さな棘を残したまま。