第47話:波多野 結奈
雪はもう止んでいたが、通りの端にはまだ白く固まった名残が残っている。
年明け最初の週末、商店街から神社へ向かう参道は、着物姿やコートの人でいっぱいだった。吐く息が白く、手袋の中の指先もじんと冷える。
私は生徒会長という立場ではあるが、他の生徒会メンバーと一緒に暫定同好会メンバーとの初詣に自然と参加させてもらえた。村越くんが先頭で歩き、後ろに私と紗月、そして少し離れてコウくんがついてきている。
「おみくじ引いたら、絶対写真撮るからな」
村越くんのいつも通りの調子に、思わず笑ってしまう。
「村越くんは、去年は『大吉』だったと聞いたけれど。もう運は使い果たしてるんじゃないの?」
「そういうこと言うなよ、波多野。オレは今年も大吉を引く男だ」
ちらりと後ろを振り返る。
コウくんはポケットに手を突っ込み、相変わらず無愛想な顔で歩いていた。駅伝大会を経て、少しはみんなとの距離が縮まったと思っていたけれど、全然そんな事ないのが気になる。けれど、初詣に付き合ってくれただけで今は嬉しい。
「孝和くん、お願い事は何にするの?」
紗月ちゃんがからかうように聞くと、コウくんは短く答えた。
「……オレは神頼みなんかしない」
即答だ。
神社の境内に入ると、鈴の音と人々のざわめきが入り混じる。
手水舎で手を清めると、冷たい水が一層冬の空気を鮮やかにした。
順番が来て賽銭を入れ、鈴を鳴らす。
――今年も、みんなで無事に過ごせますように。
そして、もう一つだけ。口には出せない、私だけのお願い事をそっと心の中で重ねた。
帰り道、村越くんが早速おみくじを見せびらかしてきた。
「見ろ! 今年も大吉だ!」
「えー、本当にあるんだ、そういうの」
笑い合う声が、冬の澄んだ空気に溶けていく。
ただ、その横でコウくんは、ただ静かに遠くを見たままだった。
口元も表情もほとんど変わらない。笑っていない訳じゃない――けれど、それは“ここにいながら別の場所を見ている”人の顔だった。
何を考えているのかまでは分からない。でも、駅伝のあの日からずっと、コウくんの中で何かが止まったままなのではないか――そんな予感だけが、胸の奥に残った。




