第44話:村越 大河
ふと空を見上げると、白いものがゆっくりと降ってきていた。
雪だ。
まだ地面を覆うほどじゃない、小さな粒が舞うような初雪。
吐く息に溶け、髪に落ちてもすぐ消えていく。
12月上旬。北陸の長く厳しい冬の始まりを告げる雪。
なのに、不思議と重苦しさはなく、むしろ心を弾ませるような透明感があった。
勝った――参考記録とはいえ、全員が全力を尽くしてつかみ取った“優勝”だ。
この場にいる誰もが笑顔で、肩を叩き合い、喜びを分かち合っている。
……と思ったら、肝心のヤツが居ないことに気づいた。
「ん?」
視線を巡らせても、一之石の姿が見当たらない。
さっきまでタオルをかけていたはずなのに。
結奈や白石が周りの人と話している間に、こっそり姿を消したらしい。
たしか「着替えてくる」と言っていたから、そのまま控室にでも籠もったんだろう。
まあ、あいつのことだ。人前で過剰に祝われるのが苦手なんだろうな――照れ隠し、そんなところだ。
雪は少しずつ粒を大きくし、グラウンドの赤土に淡く積もり始めていた。
息が白く漂い、やがて空気に溶ける。
オレ達は柏木が競技場に到着するのを待って、打ち上げに行く事にしていた。連合チームだから他の高校の選手も多いけれど、今日はワンチームだろう。
そう…。
この時、オレたちは本当に同好会として一つになれたと、そう思っていた。
この雪は、その団結を祝福してくれている――本気でそう信じていた。
これから来るクリスマス、年末年始を経て、元々バラバラだった同好会メンバーが一体となってそうしたイベントを楽しむ未来図を、オレは能天気に思い描いていたのだ。
けれども、それは間違いだった。
やがて来る三学期に、オレたちの同好会は深刻な分裂状態に陥ることになる。
けれど、この時のオレたちには、その未来を想像することすら出来なかった。




