第43話:佐伯 陽介
競技場の喧騒が少しずつ落ち着き、表彰やインタビューのための準備が進む中、オレは給水所の近くでクールダウンをしていた。
足の筋肉がまだ熱を帯びている。呼吸はもう落ち着いたが、胸の奥に残る高揚感は簡単には消えそうになかった。
中央商業の監督が歩み寄ってきた。
短く会釈を交わすと、意外にも向こうから口を開いた。
「……君を、天皇杯の県代表候補に入れる」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
だが、次の瞬間には全てが繋がった。
――波多野たちが、そして一之石が、このために走ってくれたのだ。
オレは思わず波多野の方を探す。少し離れた場所で、彼女が仲間と並び、笑っている。その笑顔の奥には、さっきまでの必死な交渉と緊張があったはずだ。
そして、その視線の先に――タオルを肩にかけ、水を飲んでいる一之石の姿。
最終区を走った直後とは思えない、落ち着いた横顔。
もし、あのラストで中央商業を抜けなければ、この話はなかっただろう。
オレのタイムがいくら良くても、団体成績が基準になれば選ばれることはなかった。
それを理解した上で、一之石はあの無茶を引き受け、走り切ったのだ。
胸の奥がじんと熱くなる。
――本当に、ありがとう。
声に出して言おうとしたが、あの距離では届かない。
だからオレは、一之石と目が合った瞬間、深く頷いた。
それで十分だと信じた。
オレはこのチームに助けられた。
いや、救われたのは、きっとオレだけじゃない。




