第42話:中条 麻衣
望遠レンズ越しに、結奈ちゃんの背中を追う。
千尋に「取材がてら話を引き出せ」と言われた時点で、私の役割は決まっていた。
単に写真を撮るだけじゃない。この場に残る「言葉」を引き出し、記録に残すこと。
中央商業の監督は、試合後の余韻に浸るどころか、スタッフと何やら早口でやり取りをしていた。
そこに、結奈ちゃんが一直線に歩み寄る。
背筋は伸び、瞳はまっすぐ。先ほどまでの涙を見せた彼女とは、まるで別人のようだった。
「――お約束、覚えていらっしゃいますよね」
開口一番、その言葉だった。
監督の動きが一瞬止まり、眉がわずかに動く。
「……約束?」
「ええ。代表選考は、団体成績だけでなく個人タイムも考慮する。そうおっしゃいました」
私はすかさずシャッターを切り、次いでボイスレコーダーの電源を入れる。
記者としては、今この瞬間こそが記事の核になると直感した。
監督は一拍置いてから口を開いた。
「……あくまで参考記録だ。それは分かっているだろう」
「分かっています。でも、参考記録でも一位でゴールした事実と、佐伯先輩の区間タイム。それを無視する理由にはなりません」
その言葉の重さに、周囲のスタッフも視線を向けてくる。
監督はわずかに顔をしかめ、何か言い返そうとして――飲み込んだ。
「……記録はすぐに確認する」
その声色には、不本意さと同時に、認めざるを得ない現実への諦めが滲んでいた。
私はその表情を逃さず撮影した。
同時に、千尋の言葉を思い出す。
――これが、彼らの本当の勝負なのだ。
結衣ちゃんは深く一礼し、その場を離れる。
その背中を見送りながら、私はファインダーを下ろした。
記事は事実を淡々と書くだけでいい。だが、その行間には、今日この場で戦った高校生たちの本気が滲むだろう。




