表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/178

第42話:中条 麻衣

 望遠レンズ越しに、結奈ちゃんの背中を追う。

 千尋に「取材がてら話を引き出せ」と言われた時点で、私の役割は決まっていた。

 単に写真を撮るだけじゃない。この場に残る「言葉」を引き出し、記録に残すこと。


 中央商業の監督は、試合後の余韻に浸るどころか、スタッフと何やら早口でやり取りをしていた。

 そこに、結奈ちゃんが一直線に歩み寄る。

 背筋は伸び、瞳はまっすぐ。先ほどまでの涙を見せた彼女とは、まるで別人のようだった。


「――お約束、覚えていらっしゃいますよね」

 開口一番、その言葉だった。

 監督の動きが一瞬止まり、眉がわずかに動く。

「……約束?」

「ええ。代表選考は、団体成績だけでなく個人タイムも考慮する。そうおっしゃいました」


 私はすかさずシャッターを切り、次いでボイスレコーダーの電源を入れる。

 記者としては、今この瞬間こそが記事の核になると直感した。


 監督は一拍置いてから口を開いた。

「……あくまで参考記録だ。それは分かっているだろう」

「分かっています。でも、参考記録でも一位でゴールした事実と、佐伯先輩の区間タイム。それを無視する理由にはなりません」


 その言葉の重さに、周囲のスタッフも視線を向けてくる。

 監督はわずかに顔をしかめ、何か言い返そうとして――飲み込んだ。

「……記録はすぐに確認する」

 その声色には、不本意さと同時に、認めざるを得ない現実への諦めが滲んでいた。


 私はその表情を逃さず撮影した。

 同時に、千尋の言葉を思い出す。

 ――これが、彼らの本当の勝負なのだ。


 結衣ちゃんは深く一礼し、その場を離れる。

 その背中を見送りながら、私はファインダーを下ろした。

 記事は事実を淡々と書くだけでいい。だが、その行間には、今日この場で戦った高校生たちの本気が滲むだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ