第35話:村越 大河
本来の作戦はこうだった。
最長距離の5区を走る佐伯先輩がリードを作り、後続はその差をどうにか守り切る――。
そのシナリオが崩れた瞬間、普通なら「終わったな」と思うところだ。
けど今、最終区を走っているのは、その作戦を立てた張本人だ。
よりによって、自分で最も重い荷を背負いに行くなんて、正直、普通じゃない。
しかも淡々と、余計な力みもなく前を追っている。
……やっぱカッコいいよな、あいつ。
ドローンの中継画面に映る背中は、どの選手よりも落ち着いているのに、気づけば前との差がじわじわ縮まっている。
無理はしていない。でも、諦めてもいない。
この状況でそういう走りができるやつを、オレは他に知らない。
――せめて、あと数メートルでも詰めてこい。
逆転が無理なのは分かってる。でも、そう願わずにはいられない。
ふと横を見る。
ゴール付近で声援を送る波多野は、手を胸の前でぎゅっと合わせて、祈るように画面を見つめていた。
白石はその隣で腕を組み、真剣な顔で走りを追っている。
柏木はスタート地点から移動しているはずで、この様子をスマホ越しに見ているだろう。
……これで本人は、自分が誰かの特別になってるなんて、微塵も気づいてないんだろうな。
ほんと、罪なやつだ。
「……来たぞ」
競技場の入り口に、白と青のユニフォームが見えた。
観客席のざわめきが一段大きくなる。
いよいよ、この駅伝の最終盤が始まる。




