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第34話:佐伯 陽介

 最終区のドローン映像を見ながら、胸の奥がじわりと熱くなる。

 あのタスキは、自分の全力を出し切って渡したつもりだった。

 タイムを確認すれば、自己ベストだ。間違いなく今の自分にできる最高の走りだった。


 それでも――もっとリードを広げて渡してやりたかった。

 50メートル。あの差は、オレがもう5秒、いや3秒でも縮めて渡していれば違っていたかもしれない。

 ベストを尽くしても、なお「足りなかった」と思ってしまう。これが駅伝なのだろう。走り終えても、仲間のために悔しさが湧く。


 その悔しさが、チームを強くする。もっとも連合チームはこの一回の大会が全てなのだが。結局強豪校というのは、それが蓄積された強さを持っているのだ。


 画面の中で、一之石が淡々と走っている。

 派手なスパートもないのに、気づけば差が詰まっていた。

 オレには分かる。あいつはまだ勝負を諦めていない。いや、諦めるなんて発想すら持っていない目をしている。


 ピッチは一定だ。フォームも崩れない。

 無理に追いつこうとしてバテる走りじゃない。計算して、相手の呼吸と脚を削るための距離の詰め方をしている。

 こういう走りができるやつは、ただの足の速い選手じゃない。戦略家だ。


 ……それにしても、あの背中は不思議だ。

 オレがタスキをかけていた時よりも、さらに重みを背負っているように見えるのに、それを微塵も崩さず前に進む。


 差は、40メートルを切った。

 観客はまだ気づいていないかもしれない。でも、オレには分かる。あの距離は、抜くための位置だ。


 ――頼む、一之石。

 お前ならやれる。いや、お前しかやれない。

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