第33話:黒川 千尋
会場の大型スクリーンには、ドローンが捉えた最終区のランナーたちの姿が映し出されていた。
先頭は優勝候補の一校、そのすぐ後ろに中央商業。そして三番手、一之石。
一之石の動きは、他の二人と比べて目立たない。
派手なスパートもなければ、沿道に視線を送ることもない。淡々と、ひたすら一定のリズムで脚を運んでいる。
だが、私は見えていた。彼のストライドが、数百メートル前よりもわずかに伸びていることを。呼吸もまだ乱れていない。これは無意識ではなく、計画的な動きだ。
距離は確実に詰まっている。
観客の多くは、まだその変化に気づかないだろう。だが、数字にすれば分かる。差が50メートルから40メートルへ、そして35メートルへ。ペースを崩さずに、じわじわと削っている。
「……まだ、勝負を投げてないな」
独り言のように呟いた私に、隣でスクリーンを見ていた麻衣が顔を向ける。
「分かるの?」
「分かる。あいつは、あくまで“届く位置”を計算してる」
麻衣はカメラを構えながら、小さく息を吐く。
「ずいぶん落ち着いて見えるけど……」
「それが一之石の怖いところだ。無駄に動かない。相手が削られてくるタイミングを、じっと待ってる」
画面の中で、一之石はなおも均等なピッチを刻み続けていた。
私はその姿を目で追いながら、胸の奥で確信していた。
――こいつは、まだ勝ちに行っている。




