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第30話:白石 紗月

 冬の光が差し込む競技場スタンドは、吐く息が白くなるほど冷えていた。


 私と結奈は並んで、ゴール地点に設置された大型スクリーンを見つめていた。

 画面には、六区のコースを飛ぶドローン映像が映し出されている。沿道の人影はまばらだが、その分、足音と呼吸がやけにはっきりと聞こえてくる。


 タスキを受け取った六区の走者は、序盤こそ軽快なピッチを刻んでいた。

 けれど、残り2キロを切ったあたりから、フォームがわずかに乱れ始めた。肩が上がり、腕の振りが小さくなる。

 その背後に、赤と黒のユニフォーム――県立中央商業の選手が迫ってきているのが見えた。


「……っ」

 結奈の息が小さく詰まった。


 あと数十メートル、というところで中央商業が追い抜く。

 さらに間を置かず、もう一校の選手も並び、抜き去っていった。

 画面の中で、連合チームの六区走者がどんどん遠ざかる。


 私は言葉を飲み込んだ。

 この区間の苦戦は、次を走る孝和くんに、途方もない重圧を背負わせることになる。

 しかも最終区。ゴールまでの距離は五区に次いで長く、逆転は容易じゃない。


 横を見ると、結奈は唇を強く噛みしめ、両手を胸の前でぎゅっと合わせていた。

 祈るように指先が震えている。

 普段は人前で弱さを見せない彼女が、今はその責任を一身に感じているのが分かる。

 あの視線は、自分を責めている人のものだ。

 ――最終区にコウくんを立たせたのは自分だ、と。


 私は胸の奥が痛くなった。

 彼女の肩にそっと手を置き、少しだけ力を込める。

 何か言おうとしても、適切な言葉は浮かばなかった。


 画面の向こうで、六区の走者が必死に中継所へ向かっている。

 その先には、競技用ユニフォーム姿の孝和くんが立っているはずだ。

 ――どうか、この空気を押し返してくれますように。


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