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第26話:村越 大河

 冷たい風が、競技場のトラックを斜めに抜けていく。


 集合時間から選手たちが揃い、チームごとの区間走者はスタート位置へと順次移動していく。駅伝といっても、ここから全員が同じ場所を出発するわけじゃない。第一区だけがこの競技場をスタートし、第二区以降は、それぞれの中継所に分かれて立つことになる。


 うちの連合チームも例外じゃない。全員で軽く円陣を組んだ後、区間ごとの走者とサポート役は各校揃って行き先別のマイクロバスに乗り込み、それぞれのポイントへ散っていく。

 オレは第四区担当の選手と一緒に中継所へ向かう予定だが、その前に全員の動きを目で追っていた。


 最終区は、予定外の代走で一之石が入ることになった。

 普通なら急な代役なんてリスク以外の何物でもないが、あいつの場合はむしろ期待値が高まっているように見えるのが不思議だ。


「じゃあ、私が最終区のサポートに行くね!」

 そう言って手を挙げたのが柏木だった。

「おっ、柏木……いいのか? あそこ寒いし、待ち時間も長いぞ」

「全然平気。ほら、孝和くん、急に走ることになったでしょ? だったら飲み物とかブランケットとか、ちゃんと気にしてくれる人がいた方がいいよ」

 あっけらかんと笑いながら言うその顔は、妙に楽しそうだった。


 一之石は、少しだけ間を置いてから、短く「……まぁ、どうでもいい」とだけ返した。

 あの投げやりな口調の奥に、何かを許している響きがあったのをオレは聞き逃さなかった。


 そのやり取りを見て、波多野の視線が一瞬だけ揺れた。

 白石もまた、ほんのわずかだが眉を寄せ、表情を引き締める。

 ――ああ、これは面白くないやつだな、とオレは思った。だが、二人とも表には出さない。そこが大人しいというか、慎み深いというか。


 マイクロバスがエンジン音を響かせ、順番に出発していく。

 上空では、複数の小型ドローンがホバリングしている。白い機体に搭載されたカメラは、各区間の走者をリアルタイムで追跡し、会場の大型スクリーンやネット配信で映し出す。

 観客はスマホやタブレットで自由に視点を切り替えられる仕様になっていて、もはや「沿道で待つ」という発想は時代遅れになっていた。いや、もちろん沿道で応援する人は相変わらずいるとは思うけれど、みんなスマホ必携って訳だ。


 時代は変わった。だが、走る人間の緊張や覚悟は、きっと昔と変わらない。

 バスの窓越しに、一之石が最終区のスタート地点に向かう後ろ姿を見送る。

 その横には柏木が並び、何やら笑いながら話しかけていた。


 ……あの二人の距離感、少し気になるな。

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