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第23話:一之石 孝和

 新聞を広げると、二面に大きく写真と見出しが載っていた。

 「県駅伝大会に挑む異色の連合チーム」――中条麻衣記者の名前が記されている。


 オレたちの集合写真と、佐伯先輩の力強い走りのカット。

 記事は、複数校から選手を集めた経緯と、それを可能にした交渉、そして佐伯先輩の実績を丁寧にまとめていた。

 ……客観的な文章なのに、どこか温かい。そんな書きぶりだった。メディアで取り上げられたからといって、先輩が選ばれる保証には何らならないだろう。ただ、出来る限りの「大人のやり方」は通したつもりだ。もうこれ以上はどうしようもない。


 オレは、今日は応援に行くつもりだから、正直ゆったりと構えていた。


 その時スマホが震えた。画面には「波多野結奈」の文字。

「どうした」

 受話口から聞こえてきた声は、今にも泣き出しそうなほど震えていた。

「……最終区を走る予定だった選手が、今朝になって高熱を出していて……これから病院に行くって。代走を立てるしかないの」


 連合チームに余剰メンバーなど存在しない。参考記録対象という事でエントリーも厳格ではないから、補欠登録はオレ自身や村越の名前にしていた位だ。


 普段は人前で決して弱みを見せないようにしていた筈の結奈が、必死に感情を押し殺しているのが分かる。

「……他に走れるやつは?」

「いないよ。全員、自分の区間の調整で手一杯で、代役を立てる事なんて出来ない。最後を任せられるのは……」

 そこで言葉を飲み込んだが、続きは分かっていた。


 ――あの日、美桜に何もしてやれなかった。

 二度と、あんな思いを誰にも……結奈には、絶対にさせない。


 オレは新聞を机に置き、短く息を吐く。

「……分かった。オレが走る」

「で、でも……」

「こうなったら仕方ないだろ。最終区が空いたままじゃ、チームは成立しない」


 電話の向こうで、結奈が小さく息をのむ気配がした。

「……ありがとう、コウくん」

 その声は、わずかに安堵と、別の何かを含んでいた。


 通話を切り、オレは手早くジャージに着替える。

 ――予定外の役割だが、逃げる理由はない。

 少なくとも完走して見せなければどうにもならないだろう。優勝はまぁ無理にしても、とにかくゴールしてみせて、あとは佐伯先輩自身の6区の走りに期待するしかないな。


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