第22話:中条 麻衣
冬の空気は張り詰めていて、吐く息が白い。
グラウンドでは、連合チームの選手たちが黙々とランメニューをこなしていた。
号令をかけているのは一之石孝和くん。ストップウォッチとメモを片手に、ペース管理から休憩のタイミングまで、全て指示している。
計画表はきっちりと時間ごとに区切られ、負荷と回復のバランスも取れている。
取材のために全体を観察していた私は、思わず心の中で感嘆の息を漏らした。
――ただの高校生じゃない。しかも数学の天才と聞いていたが、それ以上に「現場を動かす力」がある。
「どう? 取材になりそうか?」
隣で千尋が腕を組みながら、私に声をかけてくる。
「ええ。正直、予想以上よ。計画だけじゃなく、人を動かすのが上手い」
「だろう? 見た目よりずっと“大人”なんだよな」
千尋は少し笑って、視線をグラウンドに戻す。
私はカメラのファインダー越しに、選手と並走して声をかける孝和の姿を追った。
その背中は落ち着いていて、何かを背負っているようにも見える。
「……でも、大人ってだけじゃないわね」
「そう思うか?」
「ええ。何か、もっと重たいものを抱えてるような……」
千尋は短く息を吐いた。
「私もそう思ってる。でも、理由は聞かないし、聞ける感じじゃないんだ。正直言って…」
言葉の端に、教師としての線引きと、それでも放っておけない気持ちが混じっていた。
グラウンドでは、最後のメニューに入った佐伯が全力でスパートしている。
その横を並走する一之石くんの声が響いた。
「ラスト、追い込んで!」
私はその一瞬をカメラに収めながら、胸の奥でひそかに思った。
――中立でいるつもりだったけど、どうやらもう、心はこの連合チーム側だ。




