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第21話:村越 大河

 放課後のグラウンドは、冬の夕方特有の冷たい風が吹き抜けていた。


 佐伯先輩がタイム計測用のスタート地点に立ち、その横で孝和がストップウォッチを構えている――かと思えば、次の瞬間には自分も同じコースに並んでいる。


「オレも一緒に走ります」

 そう言って軽く肩を回し、他校の選手たちと同じ列に加わった。


 号砲代わりの掛け声と同時に、一斉に走り出す。

 普通、こういう場合は計測役に徹するものだ。だが、孝和は違う。ペースメーカーを自ら務めるのだ。

 他校の中距離専門選手にぴたりとつき、ペースをわずかに引き上げていく。

 終盤、前を走る選手が息を乱すと、横から小さく「ラスト五十、上げます」と声をかけ、自分もスパート。


 計測を終えた後も、そのまま次の組に混ざり、また走る。

 佐伯先輩だけじゃない。連合チーム全員の走りを、自分の体で引き上げようとしているのが分かった。


(……こいつ、本当にすげぇな)

 練習メニューを組むだけじゃなく、自分も汗をかいて一緒にやる。

 口数は少ないくせに、やってることは誰よりも熱い。


 そんな様子を、グラウンド脇から生徒会長――一之石と同じ中学出身の波多野がじっと見ていた。

 その隣では柏木が、にこにこと何かを話しかけている。

 会長の視線はどこか柔らかくて、柏木の笑顔を見ても変わらない……けれど、ほんの一瞬だけ、揺れたように見えた。


(ふむ……会長はあいつに特別な感情を持ってるな。柏木も同じかもしれん)

 じゃあ、当の本人は? おそらく自覚ゼロだ。

 あいつは誰に対しても一定の距離を保つくせに、気づけば誰かのために動いている。

 それが一番、たちが悪い。


 最後の組のランが終わると、孝和は計測結果を簡潔にまとめ、選手たちに手渡した。

 疲れた顔も見せず、次のメニューを指示する。

 その背中を見て、オレは小さくため息をついた。


(……まあ、オレはオレで、あいつのフォローを全力でするしかねぇな)

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