第18話:一之石 孝和
応接室の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
県立中央商業の監督の声が、まだ耳にこびりついている。
――「団体戦の中で結果を出せない者が、個人で結果を出せるわけがない」
あの瞬間、頭の奥に嫌な記憶がよみがえった。
去年の冬、数学ジュニアオリンピックの最終選抜。
全課題に解答を出し、手応えもあった。それでも発表に自分の名前はなかった。
理由は――「独創的だが、自分の力だけに頼りすぎる姿勢が懸念される」「もっと周辺と、仲間と、打ち解けて共創しようという姿勢をもたないとダメだ」というヤツだった。
あのときも、最初から結論は決まっていたのだろう。
協調性を求める場で、一人で解決できることは評価されなかった。
今回も同じだ。
監督は「団体戦の中での結果」を理由に、自分のチームの選手を押し出す。
結局その方が自分にとって都合がいいから。
廊下を歩きながら、足取りは自然と重くなる。
参考記録の連合チームが、県大会優勝校に勝つ――そんなこと、現実的にはほとんど無理だ。
冷静に考えれば、それは分かっている。
それでも、胸の奥のどこかがざわめいていた。
もし、全員が最高の走りをしたら……もし、条件がすべて噛み合ったら……。
――その「もし」が、頭から離れなかった。
勝てる保証なんてない。
だが、やれることを全部やらずに終わるのは、去年の冬と同じ後悔をするだけだ。
それだけは、二度とごめんだ。
気づけば、手のひらがじっとりと汗ばんでいた。
この感覚を、忘れるわけにはいかない。




