表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/178

第14話:黒川 千尋

 廊下を歩いていると、生徒会室の扉が開き、柏木が満足そうな笑顔で飛び出してきた。

「あ、黒川先生。じゃ、またねー!」

 軽く手を振って駆けていく背中を見送りながら、私は足を止めた。


 扉の向こうから、まだ数人の話し声が聞こえる。

 少しだけ覗くと、中には一之石、波多野、白石、村越がいた。

 机の上には資料が散らばり、その場の空気は、先ほどまでとは少し違っているように感じられた。


 理由はすぐに分かった。

 ――一之石が、珍しく「勝手にしろ」と言っていた。

 あれは、彼なりの譲歩だ。

 普段なら距離を置くためにきっぱり断る場面で、そうしなかった。

 しかも相手は柏木。あの子のあっけらかんとした押しの強さは、彼のガードをほんの少しだけ崩すらしい。


 その瞬間、波多野がほんのわずかに目を伏せた。

 短く切ない色を帯びた表情――しかし、すぐに柔らかな笑みへと戻る。

 白石はそれを横目で見て、何も言わず、視線を資料に落とした。

 私から見ても、あの二人の間には言葉にしない空気が流れているのが分かった。


 一之石には、数学に集中してほしいというのが私の本音だ。

 だが同時に、こうして人との距離を少しずつ詰める姿を見ると、それもまた必要な時間なのだと思えてくる。

 論理や公式では割り切れない関係性の中でこそ、人は成長する。

 それを知らずに大人になれば、必ずどこかで立ち止まる瞬間が訪れることを、私は知っている。


 ――さて、この変化は一過性か、それとも始まりか。

 生徒会室の扉をそっと閉じ、私は廊下を歩き出した。

 足取りは、ほんの少し軽くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ