第12話:柏木 美羽
「じゃーん!差し入れ~!」
生徒会室のドアを開けるなり、私は袋を掲げて入っていった。
中にいたのは、生徒会長と紗月ちゃん、それに一之石くんと村越くん。会議っぽい雰囲気だったけど、空気はちょっと重め。
「お、なんだ柏木か」村越くんが笑って手を挙げる。
「おう、今日は駅伝の相談だぞ。お前も詳しいだろ?」
「まぁね~。元陸上部だし。顧問のクセとか、他校の情報ならちょっとは知ってるよ」
私は持ってきたペットボトルを配りながら、一之石くんの方を見る。
相変わらず姿勢がきっちりしてて、目線は書類に落ちたまま。でも、差し出したお茶をちゃんと受け取ってくれた。
「ありがと」
「あ、うん……ありがとう」
その声、思ったより優しいじゃん。こっち見ないけど、口調が柔らかい。
「ねえ、一之石くんってさ、こういう交渉とかも得意そうだよね?」
「……得意、とは言えないな。やることはできるが、感情の読み合いは苦手だ」
「えー?でも、今の説明とかすごく分かりやすいよ?ほら、そういうのもっと最初から言ってくれたら、みんな話しやすいのに」
私が笑うと、一之石くんもほんの一瞬、表情が緩んだ。
――あ、この人、笑うと年相応になるんだ。
何でいつもそんなに固くしてるんだろ。もったいないな。
そんな空気の中、視界の端で生徒会長と紗月ちゃんが一瞬だけ顔を見合わせた。
その目が、何か動揺しているようにも思えた。
……でも、その理由までは分からない。
「じゃ、私これで。情報はまた村越くんに送っとくから!」
あっけらかんと手を振って生徒会室を出る。
背中に四人の視線を感じながら、私はにやりと笑った。
――うん、一之石くん、“孤高”のままで居させるのはやっぱりもったいない。




