第11話:白石 紗月
昼休みの生徒会室は、いつもより空気が重かった。
結奈は机に書類を並べたまま、ペンを持つ手を止めている。
聞けば、朝一番で訪ねた他校の顧問から、連合チーム参加をきっぱり断られたらしい。
理由は「うちの選手は他校と組ませるつもりはない」――言葉は丁寧でも、門前払いに近かった。
結奈は表情を崩さない。生徒会長としての顔は、こういう時ほど完璧だ。
でも、私には分かる。長い付き合いだから、目の奥の力がほんのわずかに抜けているのが。
「……まあ、こういうこともあるよ」
そう声をかけると、結奈は薄く笑った。
「分かってる。でも、思った以上に壁が高いの」
いつもなら、難題に燃えるタイプのはずなのに、今日はその熱が半歩後ろに下がっている。
机の上の書類に視線を落としたまま、指先で端を揃える仕草が、妙に慎重だ。
「波多野結奈なら、大丈夫でしょ」
わざとフルネームで呼ぶと、彼女は小さく息を吐いた。
「……そう思わせないと、ね」
その「ね」が、友達の私には刺さる。
生徒会長としての建前と、結奈としての本音の間で、少しだけ揺れているのが見える。
私は机の端に腰をかけ、あえて話題を変えた。
「で、その交渉役は孝和くんなんでしょ?」
「うん。……あの人は、絶対にうまくやってくれる」
その言い方は、信頼とも、少しの甘えとも取れる。
――やっぱり、この駅伝の件は、ただの部活支援じゃ終わらない。
結奈がどこまで本音を見せるのか、そして孝和くんがそれにどう応えるのか。
友達として、私は最後まで見届けるつもりだった。




