第1章9話 決着ぅって、なんだコレ!?
「振動が激しくて姿勢制御が追いつきません。でも大丈夫」
ーーヒュルルルルル……ドガァアッ!
「ギャウウウウウッ!?」
態勢を立て直した駆逐艦のミサイル攻撃に、大きくたたらを踏むレッドドラゴン。
ーーブドドドドドッッ!!
そこに左舷の連装機関砲が、追い討ちをかける。
「次発装填を急ぎな! 全く、撃てるのがミサイル一本だなんて!」
「いきなりほぼ垂直に、船体が跳ね飛ばされましたからね。武装が暴発しなかっただけ幸運でした」
「そりゃそうか。んんっ、回避ぃ!」
ーーヴィイイッッ!!
ーーズババババッッ!!
開口しているミサイル発射管を狙った熱線は、姿勢制御スラスターの側面噴射で辛くも直撃を避けたものの、船体を浮かせる右舷上の気嚢が寸断破裂し、一気に高度が下がる。
「気嚢の浮力が半減しました。下方スラスター噴射を全開にしますが、間に合いません。警告! 不時着します。総員も衝撃に備えて下さい!」
「アキラメルが落ちる!?」
全力の下方噴射で落下速度を殺そうと足掻く駆逐艦を狙い、熱線を放とうと鎌首をもたげる赤竜。
「やらせるかぁ」
何とか起き上がったブルスが左肩の無反動砲を撃ったのを、ドラゴンは油断なくひょいとかわし標的をブルスに変える。
「クハアアアアアアア……ッ!」
シオンは反射的に操縦桿を引いたが、背部のロケットモーターが噴射しない。
故障だ。
さっきの痛烈な一撃は右腕一本だけで終わらず、背嚢も損傷させていた。
「ギル、ごめん。これ、避けられないかも」
「か、覚悟の上じゃ。いっそ消し炭も残さず焼いてみい、魔王に媚びを売る火トカゲめが!」
この期に及んで、なおも減らず口。
悪罵の念が届いたか、レッドドラゴンはくわと牙を剥き、大きく息を吸い込んだ。
渾身の熱線が浴びせられる、その瞬間。
ーーブォンンッ! ドガァッ!
旋風を巻いて飛来し、竜の右足首に叩き込まれた斬機戦斧の一撃!
「ギャオオオオオオッッ!?」
「我が嫁に手を出すな赤竜っ!!」
戦斧をぶん投げたのは、胸甲が壊れほとんど全裸、慌てて豊満な乳房を隠したガイラだ。
背面スラスター全開で地面を滑走するベスタ改の肩に乗り、見事な投擲で二人の窮地を救った。
常人ならば即死あるいは半身不随のあの怪我も、気力魔力の充実したトロルの回復力なら数分で全快。
ベスタ改に駆け寄り蹴飛ばして、再起動させたナイスアシスト。
「このまま突っ込むぜ。降りてろ女戦士!」
ルビィの決意に一つ頷き、飛び降りるガイラ。
ベスタ改も満身創痍、仇敵相手に突撃銃を失い電磁拳銃も撃ち尽くしたが、それでも彼女は突撃する。
「ガァアアアアッ」
レッドドラゴンが前脚を着き、迫る装甲機兵を睨みつけた。
ブルスを後回しに長い首をしならせ、ベスタ改へ猛然と噛みついていく!
「そうだ、かかってきな!」
ベスタ改が腰を捻る。
左上腕の小盾が変形して手を覆い、固めた鉄拳に宿る星の輝き!
「コイツが俺のッ!」
ーーゴッ!
噛み砕く牙から紙一重、かわしざまに大地を踏みしめ、下から竜の顎を打ち抜く猛烈な一打!
「アッパーカットだッ!」
ーードォオオオオオオオオ……ンンンンッ!!
「グガッ! ガァアア……ッ! ガガァッ!」
地響きを立てて転倒する巨竜。
苦し紛れにもがいた前脚が、動けないベスタ改を凪払って吹っ飛ばす。
「ルビィっ!?」
「お、俺ぁ大丈夫だ! やっちまえ、新米!」
二、三度バウンドし仰向けに倒れたGAが、煙を吹きつつ左腕を真上に翳す。
「やるんじゃ。今しかない。シオ!」
「うわぁあああああああっ!!」
再び起きあがろうと足掻くドラゴンの横っ面に、弾の尽きたロケットランチャーを捨てたブルスが、左肩を突き出して体をぶつけた。
「ギャグウウウウウッ!」
ありったけ魔力を込めたショルダータックルで、横倒しに倒れ込んだ竜の顎のやや下、逆立つ巨大な逆鱗目掛け、腰の後ろから引き抜いたのは円匙だ。
「ごめんね……でも、あたしは皆を護りたいからぁっ!」
尽きず溢れる魔杖の魔力を操縦桿に込めて、逆鱗を砕き突き破るショベルの一撃。
「グガォッ! ガッ、ガハッ! ガガァアアアアアアアッッ!!」
必殺の念、致命の一撃が、急所を貫かれたレッドドラゴンのエゴを圧倒し、マナを失わせていく。
「ガ、グァ」
苦痛を感じぬのか、力尽きたか、赤竜は暴れることなく瞳をブルスに向けた。
そのまま瞳孔が拡散し、痙攣していた手足、翼も尻尾も動きを止めて……。
ーードムンッ☆
爆煙が爆ぜたかと思った瞬間、巨体が掻き消えた。
「はぁ!?」
「えっ?」
「消えたぁっ?」
「赤竜の消失を確認。おおっと?」
「何じゃと! 鱗は? 骨は? 角とか貴重な素材がぁ?」
「血と肉は欲しかったな。美味しいんでしょ?」
「コックは黙ってな! それどころじゃ」
「グガァ?」
「はいぃい?」
「今の声……まさか、ドラゴン生きてんのっ?」
慌ててショベルを構えなおしたブルスのカメラが発光し、レッドドラゴンの亡骸が伏していた辺りを照らす。
そこにはシオンが両手で抱くのにちょうどいい大きさの、ずっぐりむっくり二頭身。
赤い竜のぬいぐるみがちょこんと座り、幼く甘えた声で鳴いていた。
「グガァ♪」
初めてまして。あるいはお久しぶりです。
第1章最終話をお読み頂き、ありがとうございます。井村満月と申します。
シオンのピンチに皆が駆けつけ、力を合わせて大勝利! レッドドラゴン討伐? 達成です!
ぬいぐるみの大きさになっちゃった赤竜、なんだかシオンたちに甘えてますね。
面倒を見てあげないと、またおっきくなって暴れちゃうかも。
不時着したアキラメルも無事なのか?
けっこう壊れちゃったブルスやベスタ改、ガイラのビキニアーマーも治さないといけないし、色々この後で大変そうですが、先ずは大団円です!
……最終話ってつけちゃいましたけど、ちょっと早いかな?
だってこんなに頑張ったんだから、シオンちゃんとギル姫にご褒美があっていいはず、なきゃウソ、皆にも労いタイムが必要ですよね!
と言うわけで、第1章はもう少しだけ続きます。最終話じゃなくなるかも。
その時はどうかお許し下さい。
ではでは次はシオンとヒロインたちの、ご褒美タイムでシメ!
どうかお楽しみ下さいませ!