第1章8話 今だ突撃! 赤竜、狩るっきゃない!
城の上空に待避していたアキラメルの船体が、波頭に突き上げられるように艦首を跳ね上げられ、転覆しかける。
「なんだって言うんだい! 被害報告!」
艦長席にしがみついて、転落を免れたジュンコが焦りを露わにXCPへ叫ぶ。
「ただいま状況が大変混み合っています。少々お待ち下さい」
舵輪を放さず人間離れしたガニ股で操作卓にしがみついたメカ娘が、髪の束を煌めかせて情報収集を開始した。
「艦内設備が散乱し、乗員に怪我人が出ています。主砲も損傷。城の城壁や尖塔にも被害を確認。ルビィとガイラは……」
「オレぁ無事だ。何とかな。だが吹っ飛ばされて機体が擱座しちまった。動けねえ」
「私もだ。右足がもげて背骨も折れている。げふっ、肺も片方が破裂してるな。幸い敵もどこかに飛ばされたが、治癒に少し時間が……わ、我が嫁は!?」
「通信が回復。機体の診断を開始します……無事です。マスターもプリンセスもお元気で何より」
「元気じゃないわよおおおお」
ふらふらの手で鼻血を拭い、弱々しく答えるシオン。
ギルはグリグリと鼻先を彼女の操縦服にこすりつけた後、顔を上げて座り直す。
「くひひひ……やってやった。レッドドラゴンのドラゴンブレスを防ぎきったわ! くひゃひゃひゃひゃっ! もー二度とやらんぞぉっ! いっひっひ」
シオンから生えた破格の魔杖を掴み、眦と口元と長耳を垂れさせ、すっかり惚けた様子のギル。
そんな二人の無事をモニターで確認して、ジュンコは制帽が飛ばされた紺髪を掻き、呆れてみせる。
「すっかりラリってんねえ。だけど、もう一踏ん張りだよ。シオン、行けるかい?」
「きっついけど、やれる。作戦通りだよね?」
「そうじゃあ。全力でブレスでも吐かせねば、ドラゴンほどの魔性なんぞ、何をやっても傷つけられん。今ならヤツもマナを消耗し、竜麟がゆるんでおるわい!」
これこそギルが命懸けで、竜を煽った真意であった。
GAがマナを宿し、エゴによって強化されるとの同様に、万物はマナとエゴでその身を堅固にする。
天災に等しいドラゴンほどの怪物ならば、そのマナとエゴも強大で、アキラメルのプラズマ砲すら弾いた。
だが、消耗した今ならば。
「行くよギル。シープも手伝ってね。しっかり捕まってて!」
言うや否や返事も聞かず、操縦桿をAI支援モードに戻したシオンは、ブルスに無反動砲を担がせ疾走させる。
「ギャウウウウウウウウッッ!!」
見渡すばかり開けた荒野と化し、赤竜との間に身を隠す物はない。
レッドドラゴンは威嚇なのか翼を大きく広げ咆哮するが、空へ飛び立たず地を踏みしめて前進してきた。
牙を向いて突進する速度は、意外に早い。
GAと赤竜の体格差は歴然、頭だけでもGAより大きい程だが、シオンはむしろ元の世界で慣れ親しんだ光景に、心地よい緊張を感じて微笑んだ。
「怪獣映画から竜狩りゲーになったね。ふふん、慣れたもんだって。さぁ量産型の意地を見ろぉ!」
十分に引きつけてから、引き金を引くシオン。
同時に連射された両手のロケット弾六発を、ドラゴンは避けもせず突っ込んできて。
ーードゴォ! バゴッ! ドォンッ!
「ギャオエエエエエエッ!?」
命中弾の爆発が鱗を割り、肉を爆ぜ散らかした。
激痛と驚愕に足が止まり、身悶えする巨体へ更に接近する装甲機兵。
「くかかかっ! マヌケめ。ウロコを過信し過ぎじゃ! うぷぇええ」
「吐くならエチケット袋の中にね! もう一丁!」
走りながらでも、ドラムズの照準補正があればこれほどの大きな的だ、外さない。
ーーバガンッ! ドドォンッ! バギャンッ!
「ガゥウウウウウウッッ!!」
再び爆炎を浴びた赤竜が、苦悶しつつ身を翻した。
「その動きはあたし知ってる。尻尾の凪払いでしょっ!」
瞬間、背中のロケットモーターを点火、大きくジャンプするブルス。
その足下を、轟音を立て地面を削りながら横殴りに振り回された竜の尾が通り過ぎた。
「これで残弾全部! 最後の一斉射ぁっ!」
空中で砲身を揃え、巨体に弾体を撃ち込もうとしたブルスへ、竜が首をねじり口を開く。
「いかんっ、狙っておる、熱線ブレスじゃあっ!」
ーーキュヴィイイイイイーッッ!
ーーバガァアアアンッッ!
「きゃあああああああっっ!」
右肩を直撃した灼光が、無反動砲ごとブルスの右腕を吹き飛ばした。
バランスを崩した機体が落下し、竜の足下の大地に激突する。
「うぉぇえええええっ!」
腰のベルトにお腹を圧迫されたギルが、右腕を千切れた幻痛にも襲われ、たまらず杖から手を離し、口に当てた袋の中に嘔吐した。
「うぁあああああああっ!?」
同じ幻痛がシオンにも悲鳴を上げさせる。
機体に循環し強度を高めていたマナの明滅が弱まり、動きが鈍くなって。
「や、ヤバっ! 踏まれるぅっ!」
とっさに移動操作を操縦桿で入力、ドラムズが機体を横に転がして避けたすぐ側を、巨大な足が踏みにじって。
ーーズガァアアアン!!
「ひぃっ、わわわっ! 起きれないのぉっ!?」
初めてまして。あるいはお久しぶりです。
第1章8話をお読み頂き、ありがとうございます。井村満月と申します。
無事、ドラゴンブレスを受けきって、ここから勝負と意気込んだシオンとギル姫の、ドラゴン狩るゲー開始な訳ですが!
レッドドラゴンはかしこいので、尻尾を振っても敵から目を離しませんでした!
ブレスの余波で城の周囲が焼け野原になって、災害級の被害はしっかり出ちゃってるですよね。
ルビィさんのベスタ改はひっくり返ってるし、ガイラさんは大怪我してるし、アキラメルも転覆寸前だったし!
まあレッドドラゴンのブレスを見たあたりで、トリンとイワンはちゃっかり逃げてるでしょう。ゴブリンレンジャーや他のGA乗りの皆さんも。
こんなの俺たちの仕事じゃねえ! ってヤツです。
さてせっかくなので、忘れないよう書かせて頂く設定話を一つ。
機甲界の艦船に搭載される電磁障壁は、光学兵器に有効な殻状の電磁場の防壁を張ります。元は宇宙塵除けの技術で、大型艦の高出力なバリヤーは実体弾にも有効で、向きを逸らしたり弾頭の電子部品を故障させたりします。また複数の船で重ね張りしても、効果を高められます。GAはこの電磁障壁を突破し、至近距離で対艦兵器を撃ち込める対艦攻撃機としても活躍しました。作中でジュンコさんが指示した球面展開は強度が高い反面、中の艦船も電磁障壁の影響を受け、内外へ電磁波を通過させるのが難しくなります。他に多面展開というモードがあり、多面体の一部に開けた面を設ける事ができ、その電磁格子の隙間から外の観測や射撃、通信が可能です。しかし強度はかなり落ちますし、そこはがら空きです。飛竜に沈められた戦艦は、どっちでバリヤー張ったんでしょうね? 球面展開だと撃てない見えない話せない、なのでできれば避けたい選択かなあ。
さぁ、次は決着、第1章の最終話です!
シオンとギル姫は、怒れるレッドドラゴンの猛攻をくぐり抜け、逆転できるのか?
シオンとヒロインたちの奮戦ぶりを、この次もお楽しみ下さいませ!